東京四谷三丁目のTS4312で田淵安一展が開かれている(2月26日まで)。田淵は1921年福岡県生まれ、1945年東京大学文学部美術史学科に入学、在学中から猪熊弦一郎に師事。1951年渡仏、以後パリを拠点に制作・発表を続けた。1985年フランス政府より芸術文化勲章受章。2009年パリにて没。
国内の主な展覧会に、1982年北九州市立美術館、1990年O美術館、1996年と2006年に神奈川県立近代美術館、没後の2014年にも神奈川県立近代美術館・鎌倉などがある。
フランスの文化勲章を受章している実力者だが、日本での知名度はきわめて低い。私も色々な作家たちと話したが、ほとんど誰も知らなかった。野見山暁治と親しくしていたのは、野見山より1年早く渡仏し、二人はフランスで長く親しくしていたからだ。銀座にあったなびす画廊は田淵の造った画廊だったし、なびすの名前は田淵がナビ派が好きだったからこう名付けたのだった。
私は神奈川県立近代美術館での個展を2回見てきたが、極めて優れた画家だと断言できる。まさか都内の画廊で田淵安一展が見られるとは思ってもいなかったので、小規模な個展ながら驚きかつ感激した。
田淵は東大で学んだように、頭脳明晰で、田淵の著書『イデアの結界』(人文書院)を読めば、田淵が制作にあたって深く考え、明確な構想のもとに作品を完成させているだろうことが分かる。それは野見山曉冶の制作方法とは対極のものだ。
さらに田淵の特徴として色彩に優れていることが挙げられる。野見山が日本へ帰ってきたとき、こんな湿っぽい国でどんな色を使ったらいいのだろうと思ったと書いていた。その結果、野見山の湿ったようなみごとな色彩が生まれた。田淵は帰国しなかった。乾いた国で絵を描き続けた。田淵の絵には湿っぽい色は使われない。乾いていて軽やかで鮮やかな色彩だ。これがヨーロッパの色なのか。
おそらくほとんどの人たちが田淵を知らないと思うが、実に貴重な機会なのでぜひ画廊に足を運んで見られることをお薦めする。
・
田淵安一展
2023年2月3日(金)-2月26日(日)
13:00-19:00(金土日のみ、最終日17:00まで)月~木曜休廊
・
TS4312
東京都新宿区四谷三丁目12番地サワノボリビル9階
電話03-3351-8435
※東京メトロ丸の内線四谷三丁目駅1番出口から新宿に向って1分、セブンイレブンの隣のビル