矢島渚男『句集 天衣』(富士見書房)を読む。著者50歳前後に詠まれた第3句集だ。先に読んだ『句集 翼の上に』と『句集 延年』に続いて3冊目の読書となる。いくつか引いてみる。
初 し ぐ れ 鼬 全 長 見 せ て 駈 く
猟 銃 が 俳 人 の 中 通 り け り
憂 国 の 忌 と い ふ 愚 か な る 季 題
わ れ に な き 翼 隼 に な き 言 葉
山 凍 て て 鴉 の 枝 も 動 か ざ る
寒 梅 や 戸 津 川 村 は 崖 ば か り
紅 梅 も 白 梅 も 実 の 青 き と き
て ふ て ふ に 蛍 袋 の 深 す ぎ る
川 に 落 ち 枯 葉 う れ し や 去 り て ゆ く
色 欲 を 猿 飼 う ご と く 枯 の 中
寒 鴉 銜 へ て 去 る べ く 月 細 る
連 翹 や 乳 首 と が れ る 歓 喜 天
春 の 田 に 石 佛 刻 み 行 方 知 れ ず
イタチは素早い身ごなしで全身を見るのは稀だろう。猟銃が俳人の中を通るというのは吟行する俳人たちの間を猟銃を負った猟師が通ったのか。憂国忌は三島由紀夫の命日だ。「紅梅も白梅も」は飯田龍太の「白梅のあと紅梅の深空あり」へのオマージュだろう。
矢島は極めてユニークな発想で読者を驚かせる。また秘かなエロティシズムが特徴だ。
- 作者: 矢島渚男
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 1987/07/30
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る