夏井いつき『句集 伊月集 鶴』(朝日出版社)を読む。マスコミに出演して人気のある俳人の50代の句を集めた句集。繊細なものへの気づきが見事だと思う。
龍角散みたいに冬の日の匂ふ
馬臭き氷を育てゐるバケツ
水は球体そらも球体春もまた
蝶の舌ふれたる水のびりびりす
木蓮の愁いの器たるかたち
牛の血に太れる金の虻の腹
卵管を卵子は麗かに進む
二つ目の月産み落としさうな月
荻はみな弔旗のごとくひるがえる
秋蝉の羽浮く水に手を洗ふ
興味深い句を拾ってみた。こうしてみると、句のキモである新鮮な視点、意外さには優れているけれど、何か深みが足りない印象がある。私の考える深みとは矢島渚男の句に現れているような思想のことだ。
桐の花かかげ安中榛名かな
そういえば昔榛名という名前の女性がいたことを思い出した。