アートディレクターの意図は?


 新聞広告のコピー「家内も驚く、/男の活力、きた。」とある。若い女性がカップを持ってこちらを向いている。精力剤の広告だ。さて、女性の視線の先にあるものは何だろう? 広告はクライアント(依頼主)、アートディレクター、コピーライター、カメラマンなどで作る。クライアントからアカウント・エグゼクティブ(いわば営業担当)が商品の情報や訴求対象(誰にアピールするか=購買対象)を聞き、アートディレクターやクリエイティブディレクター、コピーライターが商品のコンセプトを探る。そのコンセプトに沿って広告を制作するのだけれど、この新聞広告もその手続きを経ているだろう。コンセプトについては、流通用語辞典から引く。

マーケティング・コンセプト、広告コンセプトといった形で使用され、特定の商品や企業イメージについての差別化をすすめ、マーケティング戦略や広告作成に際して市場導入を容易にするための主張・理念をさす。このコンセプトによって、具体的にマーケティング活動が展開されることが期待されるため、コンセプト・リサーチ(コンセプト決定のための市場情報収集)などにより慎重に決定される必要がある。広告の表現から始まったコンセプト・ワークは、今日では、新商品発売、商品のリニューアル、流通チャネルの活性化など重要なマーケティング戦略の決定に際して設定されるようになっている。
http://www.weblio.jp/content/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%97%E3%83%88?dictCode=RYTYG

 だから、曖昧に見えるこの新聞広告も、制作側からは明快なストーリーが設定されているはずだ。どんなストーリーなのだろうか。
 精力剤の広告で、「家内も驚く」というコピーから、その服用結果に奥さんが驚いているという図なのはよく分かる。彼女の視線の先に何があって驚いているのだろう。
 実はそれがよく分からない。女性は極端な驚きの表情を示してはいない。視線の先に非常識な情景が広がっているとは思えない。せいぜい、「まあ」程度の表情だ。ディレクターやカメラマンはどんな状況を設定しているのか。かれらはその設定をモデルの女の子に説明しているはずだ。君の目の前に立っているご主人は〜という状態なんだよ、と。その「まあ」程度の驚きを示す精力剤の効果を示す状況って何なのか分からない。モデルの女性の表情に適合するご主人のジェスチャーが私には分からないのだ。
 いや、現実に彼女の目の前にいるのはカメラマンとその助手、ディレクターとクライアントの担当者、グラフィック・デザイナー、ヘア・メイク、スタイリストなどなどだ。だが、何かの状況が設定されている。もし慎太郎の『太陽の季節』の再現だったら、彼女の驚きはこんな程度ではないだろう。『花の応援団』みたいに口から舌を出し「くえ〜っ くえ〜っ」て言いながら踊っている? バーベルを持ち上げている? ゴジラみたいに火を吐いている? いずれの状況でも彼女の驚きはもっと大きいだろう。ご主人が、一時期薬屋の店頭に置かれていた岡本理研ゴムのPOP(販売時点広告)のように、OKマークを出していたのなら、彼女は少し笑っているはずだ。
 この広告は新聞に何度も掲載されてきた。これを見かけるたびにいつも疑問に思っていたのだった。だれかこれに相応しい状況が分かったら教えてほしい。


 ついでに精力剤について書いたブログの記事を2点。
なぜ精力剤が飲まれるのか(2012年9月7日)
皇帝の精力剤(2009年8月3日)