ギャラリーMoMo Ryogokuの篠原愛展「chimera」をお勧めします

 東京都墨田区両国のギャラリーMoMo Ryogokuで篠原愛展「chimera」が開かれている(5月31日まで)。篠原は1984年鹿児島県生まれ、2007年に多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業している。卒業した年銀座のギャラリーQでの個展で注目された。ついで2011年にギャラリーMoMo六本木で個展が開かれ、左右3mを越える大作が展示された。今回はそれから3年ぶりに開かれる個展なのだ。
 画廊には4点の油彩と数点のドローイングが展示されている。初個展のときと同じ少女と魚の融合がテーマだ。篠原愛の成功以来、若い女性画家たちが金魚と女性の組み合わせをテーマに描く作品が散見されるようになった。それらを見てきてつくづく思うのは、篠原の作品の完成度が飛び抜けていることだ。初期の作品と比べてもイメージがいっそう複雑化し表現はさらに洗練されている。



 アーティストのコメントを引用する。長いけれど、読む価値が十分にある。

 今回の展示作品は「chimera(キメラ)」という言葉に着想を得て、イメージを広げ制作した。キメラとは、神話に登場する頭はライオン、胴はヤギ、尾は蛇で火を噴く怪獣で、異なる遺伝子情報を持つ組織からなる生物などを指し、そこから「実現しそうもない考え、希望」を意味する。
 ひとつの個体として存在していた少女が、異種の生物と有無を言わさず掛合され、その結果生まれた奇妙な生物を描こうと思った。
 少女と融合する生物、また作中に登場する生き物として魚を選んだ理由は、以前から「見栄えするよう品種改良を繰り返された観賞魚は、美しい着物や化粧を施し身なりを整えた女性と類似する」というイメージがあったからだ。また、魚の表面を覆う鱗を一枚一枚反復して描くことにより生まれる連続性で、平凡ながらも繰り返し永遠に続く(ように思われる)日日を示すことができる。その積み重ねにより生み出される尊い美しさを表現したかった。
 雌雄二匹の魚が二重らせん状に描かれた構図は、生物の設計図であるDNAの構造モデルがモチーフになっている。すべての生物が共通のしくみででき上がっていること。それはその先にある胎児が人間であれ魚であれ、発生の初期段階は同じような形をしているところにも共通している。
 人間は誰しも幼い頃は純粋無垢な生き物だが、成長過程の中で、他人や環境など外からの影響(親などの庇護下にあるときのそれは、自分の意思では選択できないものがほとんどだ)をうけ、身もこころも変容してゆく。
 自分は全く望まない環境の変化や事件でも、正面から飛んでくるものは避けようがない。とにかく受け止めて対処し、ボロボロになり、気が付いたら自分の考え方や顔つきが、全く別の生物のように変わっていたりする。
 このように書くと画面の少女たちは、己の意思に関係なく悲惨な目にあった被害者のイメージだが、決してそうではない。彼女たちに与えられた状況、自分の身体の変化を素直に受け入れ、泳ぎ回り、水中の魚と戯れ、手遊びをして、時に空想にふけり、生活を楽しんでいる。
 「理不尽な目にあっても、深刻に悩んだりせず、よい方向に、気軽に考える」多くの人が社会で揉まれながら学び、身に着けてゆく思考の護身術。これが身につかなければ、あまりの苦しさゆえにのたうちまわり、生活どころではなくなってしまうのではないか。「目が覚めたらいつの間にか身体の半分が魚になっていて驚いたけど、だったら逆にこの状況を楽しんじゃおう」という、自己肯定の強さから派生する楽観思考の少女を描きたかった。

 作品だけを見ていても大変興味深いが、その作品の裏にこんなしっかりした思想があることにも驚かされた。ぜひ両国まで足を運んで篠原愛の作品を見てほしい。図版では細部まで描き込まれた作品のすばらしさが分かりにくいと思う。
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篠原愛展「chimera」
2014年5月10日(土)−5月31日(土)
11:00−19:00(日曜・月曜・祝日休み)
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ギャラリーMoMo Ryogoku
東京都墨田区亀沢1-7-15
電話03-3621-6813
http://www.gallery-momo.com/
JR総武線両国駅東口から徒歩5分、都営大江戸線両国駅A3出口から徒歩1分