短歌に詠われた幼虫食

 朝日新聞2011年12月19日の朝日歌壇に馬場あき子選で埼玉県の酒井忠正氏の短歌が選ばれていた。


薪割れば出づる真白の幼虫を焚火に焙り食ひて香し

 これはカミキリムシの幼虫なのだ。大きいものは小指くらいはある。酒井氏は埼玉県在住という。埼玉は海のない県だ。私の生まれた長野県も海がなかった。そこでタンパク質を摂取するために、私たちは魚の代わりに昆虫を食べたのだ。蜂の子、蚕の蛹、イナゴ、それにこのカミキリムシの幼虫だ。カミキリムシの幼虫のことをわが喬木村では「ゴトウムシ」と言った。ゴトウムシは大変美味だった。
 野中健一『虫はごちそう!』(小峰書店)より、

 日本の昆虫食の中で忘れてならないものがある。それはカミキリムシの幼虫だ。これは、かつて炊事や暖房のための燃料に薪が使われていた時代、木を切り割ると中からころころと出てきたのだった。山村各地ではよく食べられていた。村人たちは、それを取り出して火であぶると「ひゅーっと伸びてな」とうれしそうに当時を思い出し、「あれはうまかったなぁ」と遠くを見ながら語っていた。

 いや「ころころ」とは出てこなかった。せいぜい3匹くらいだった。オヤジと私と弟がやっと1匹づつ食べたのだった。つまりお袋にまでは回らなかった。希少だからよけいご馳走だったのだろう。
 ちなみにパール・バックの『大地』に出てくるイナゴは、実はバッタの誤訳だった。イナゴは大量発生して畑の作物を食い尽くすことはない。それはlocustというサバクトビバッタの一種なのだ。イナゴは食べるがバッタは食べたことがない。

虫はごちそう! (自然と生きる)

虫はごちそう! (自然と生きる)