昆虫食

mmpolo2007-01-04




 娘から、父さんてコオロギ食べるよねと言われた。違う、食べるのはイナゴだ。でも店で売ってるのはイナゴの佃煮だから黒い。コオロギに似ているというのも分からないではない。とは言ってもやはりイナゴは食べ物、コオロギは虫だ。
 故郷が長野県の南部の村だからいろいろな昆虫を食べた。イナゴ、蜂の子、蚕の蛹、カミキリムシの幼虫。蜂の子は佃煮にして瓶詰めを売っているが数千円もする。本当はクロスズメバチの幼虫なのだが、そんなにたくさんは捕れないので、ミツバチの幼虫がだいぶ混ざっていると田舎の友だちが言っていた。クロスズメバチがそんなに捕れる訳がない、こんなに安い値段(数千円)で売れる訳がないと。
 クロスズメバチ、田舎の言葉でスガラを捕るためにはまずカエルを捕まえて太股の肉を切り取り、それを棒の上などに付けておく。スガラがきてカエルの肉を口で切り裂いて小さな肉団子を作る。その時、肉団子に真綿を付けてやる。スガラは真綿の付いた肉団子を巣に持ち帰る。その白い真綿を目印に皆で蜂を追いかける。畑や川や藪を越えて飛んでいく蜂を追いかけるのは本当に大変だった。山の中の巣穴に入るのを見届けたらそこに印を付けておく。
 夜、花火の煙幕を持っていって巣穴に突っ込む。蜂は煙に酔って抵抗できないでいる。巣を掘り出して持ち帰る。
 しかし、それは大人のやることで、子どもたちはアシナガバチの巣を採った。巣を壊して幼虫を生で食べた。さすがに噛まないで丸飲みした。のどをつるんと落ちていった感触を覚えている。幼虫には様々な成育段階があって、蛹っぽいものや、成虫の形でまだ白いものから黄色と黒のほとんど成虫寸前のものまである。ガキどもの間では成虫に近いものを食べられるほど、英雄だった。そういえばクスサンの幼虫(写真)を口に入れたガキ大将もいた。
 クロスズメバチをスガラと言った。長野県の北の方ではスガレとも言うようだ。中学生のころか、古文の教科書に「すがる乙女」という言葉があり、蜂のように腰がくびれた娘とあって、スガラの元が古語のすがる=蜂であることを知った。
 長野県の南、天竜川を挟む地域を伊那谷という。ここは平安時代の古語が残っているのだという。そう言えば、子供の頃、暴れることを「あらびる」と言った。これは「あらぶ、すさぶ」の古語が少しなまって残っているのだろう。
 実は一番の好物がカミキリムシの幼虫だった。ゴトウムシと言った。親父が薪割りをしているとやっと2匹か3匹くらい薪の中から出てくる。弟と1匹づつもらった。火であぶるとぴーんと伸びて硬直した。それがうまかった。今でも食べたい。本で読むとローマ貴族も好んだという。さもありなん。薪の中からやっと見つかるのだから産業になるはずがない。だからほとんどの人がこの美味を知らない。
 天竜川のもう一つの名物はザザムシだ。これはカワゲラ、トビゲラなど川虫の幼虫らしい。見るからにグロテスクだ。ザザムシは食べたことがなかった。人間3歳までに食べさせれば何でも食べるという。ザザムシは嫌だけれど、ゴトウムシは娘に食べさせたかった。