丸谷才一の「あいさつは一仕事」から

 丸谷才一の「あいさつは一仕事」(朝日新聞出版)が発行された。丸谷はしばしば公私のパーティーなどで挨拶を依頼される。その際のスピーチの原稿を保存しておいて挨拶に関する本を作っている。最初が1985年の「挨拶はむづかしい」、ついで2001年に「挨拶はたいへんだ」、そして本書である。丸谷の甥の娘の結婚式のスピーチから始まって、「吉田秀和文化勲章を祝う会での祝辞」や「井上ひさしさんお別れの会での挨拶」など50の挨拶が収録されている。急に指名されてスピーチした時は帰宅後原稿に起こしているという。
 さて、サイデンステッカーさんを忍ぶ会での「日本文学への三つの貢献」が面白かった。サイデンステッカーさんは日本文学に三つの点で貢献したとして、第一に谷崎潤一郎川端康成太宰治の作品を英訳して、日本の現代小説を海外に紹介し、認知させたこと、第二に「源氏物語」の新しい英訳によって、一千年前の日本に大小説があることを世界に知らせたこと。

 そして第三に、戦前の日本文学を長いあひだ支配してゐた、志賀直哉谷崎潤一郎より上といふ、古くさくて堅苦しい文学的価値観を逆転させ、谷崎潤一郎志賀直哉より上の小説家といふ考へ方を確立したことです。あれで日本文学は、私小説中心の、修身のやうな貧しい文学観からやうやく脱出し、健全で正統的な小説へと戻ることができました。(中略)
 この三つでわかるやうに、サイデンステッカーさんとわたしの文学の好みは大体近いものでした。夏目漱石は尊敬し、小林秀雄は認めない。さういふ所もよく似てゐました。

 最初の「挨拶はむづかしい」は発行直後に買ったものの、「挨拶はたいへんだ」は最近まで知らなかった。しかし、もう買ってまで読もうとは思わないと言おうとして、文庫化しているのを知ったのでやっぱり買おう。
 丸谷の言う挨拶のコツは、必ず原稿を書き、短く、あと何だっけ? 忘れた。


あいさつは一仕事

あいさつは一仕事

挨拶はむづかしい (朝日文庫)

挨拶はむづかしい (朝日文庫)

挨拶はたいへんだ (朝日文庫)

挨拶はたいへんだ (朝日文庫)