日本の野生のハチドリ

 以前カミさんが日本にハチドリがいると言うので、日本には野生のハチドリはいないよと言うと、(彼女の実家があり、18歳まで過ごした)松本にはハチドリがいて、夏の夕方などに花の蜜を吸っていたと言う。
 それはハチドリではなくてスズメガという蛾の一種だよと言ったのだがなかなか信用してくれなかった。
 ウラジーミル・ナボコフ若島正・訳「ロリータ」(新潮文庫)に次のような記載がある。

 当地のある婦人がやっていた自作彫刻の展示、惨めな月曜の朝に行ってみたら閉館で、埃と、風と、痩せた土地。コンセプション公園、そこはメキシコ国境の町にあり、越えはしなかった。そこでも他の場所でも、夕暮れになると灰色の蜂鳥*が無数に現れ、薄暗い花の喉をさぐっていた。

 この「灰色の蜂鳥」に関する訳者の注

*灰色の蜂鳥  これもナボコフの言によれば、蜂鳥でなく、「スズメガ」。

「ロリータ」の主人公ハンバート・ハンバートも間違えたのだから、カミさんが間違えたのも無理ないのかもしれない。



(追記)

 なぜ私がハチドリをスズメガだと分かったか。ハチドリの存在とそれが日本に分布しないことを子供の頃私は本で知っていた。また夏の夕暮れに大きな蛾がホバリングしながら花の蜜を吸っているのを何度も見かけていた。当時すでにホバリングするなんてハチドリみたいだと思った。後年それがスズメガだと知ったのだった。