池端宏「稲作渡来民」を勧める

 以前、私は池橋宏の著書を紹介して、「稲作の起源、中尾佐助の誤り」(2007年2月9日)を書いた。稲の起源を長江中・下流域で多年生稲の株分けから始まったとする画期的な新説だった。池端宏は水稲の育種が専門の学者だが、稲作の起源論からたどって日本への渡来について考察する。それが新著「稲作渡来民」(講談社選書メチエ)だ。
 これまた魅力的な本だった。農業の育種学者がなぜ古代史を語るのか。それは”稲作の起源"という強い軸足がが確立されているからだ。池橋はそのことから考察してどんな民族がどのようにして日本へ稲作を伝えたか、その結果日本がどのように変わったかを説得力をもって記述する。
 稲作は長江中・下流域の根菜農業から始まった。多年生の野生稲を株分けするという特殊な方法から始まり、それで田植えという高等技術に進んだ。それを始めたのが越や呉のタイ族だった。彼らは山東半島を経て朝鮮半島南西部から日本に渡ってくる。
 「稲作の起源」を読んでから「稲作渡来民」を読むことをお勧めする。