山本弘の作品解説(13)「青年」


 山本弘「青年」油彩、およそM25号(79.8cmx54.7cm)
 1968年の飯田市中央公民館での個展で発表された。何を隠そう、この絵のモデルは20歳の時の私だ。横向きにも見えるが、おそらく正面を向いている顔なのだろう。10年ほど前、勤めていた会社の女性にこの絵の写真を見せたらひと言「ゾンビ」と言った。うまい! 私はモデルになった時2浪をしていた。長髪で身長174cm、体重50kg、ガリガリに痩せていた。将来の展望もなかった。暗かったのだろう。それを過不足なくこうして定着している。
 飯田市美実博物館の資料には1958年作となっているが、それは誤りだ。第一にその頃とは作風が全く違うし、何より当のモデルが証言している。誤りの原因は作品の裏に書かれた年号だ。1958となっている。考えられるのは古い作品を潰して新しく描いたか、あるいは他人の絵を潰して描いたかだ。1958はその古い作品の制作年だろう。表面に絵の具の不自然な盛り上がりがあるのも古い作品の痕跡を示唆する。絵の具やキャンバスに事欠いていた山本は、公募展が終わっても取りに来ない他人の絵を勝手にもらってきて、その上から自分の絵を描いているのだと言っていた。
 今まで紹介してきた作品が40代後半の晩年のものだったのに対して、これは山本弘37歳の頃の作品、晩年のものとは少し違っている。この頃は左下に見えるように、サインも「Hirossi」としていた。ちなみに晩年は「弘」とサインしたが、まれに「ヒロシ」というのもある。最晩年にはあの几帳面な山本がサインを省いているものまであった。

 (飯田市美術博物館所蔵)