コバヤシ画廊の小沼直晴展を見る

 東京銀座のコバヤシ画廊で小沼直晴展「囚われの石」が開かれている(11月26日まで)。小沼は1952年東京生まれ、1976年に東京教育大学芸術学科を卒業している。1981年からコバヤシ画廊で個展を繰り返していたが、今回は1998年以来24年ぶりとなる。


 今回の展示はアルミ板の上に石を置き、アルミ板を700度に熱している。アルミ板は溶け、その上で石を動かしてアルミ板を変形している。鉄線を置き、「囚われの石」と命名した。

 同じような条件で制作しても微妙な温度の変化によりアルミが様々な表情を見せている。鉄線も多様な形を示し、20数個の作品が面白く展開している。

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小沼直晴展「囚われの石」

2022年11月21日(土)―11月26日(土)

11:30―19:00(最終日17:00まで)23日開廊

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コバヤシ画廊

東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1

電話03-3561-0515

http://www.gallerykobayashi.jp/

 

 

eitoeikoの相川勝展を見る

 東京神楽坂のeitoeikoで相川勝展「SUBSTANCE」が開かれている(11月26日まで)。相川は1978年ペルー生まれ、2004年多摩美術大学メディア芸術学科卒業。六本木クロッシング、トーランス市美術館、アーツ前橋、十和田市現代美術館東京都写真美術館ICCインターコミュニケーションセンター、東京都庭園美術館などの企画展に参加している。


 まずCDアルバムジャケットシイリーズ。これらのジャケットはすべて相川がアクリルで克明に描き写したもの。さらにライナーノーツを手書きし、相川がアカペラで吹き込んでいる。

 「Portrait」。「世界中で公共に設置される無数のカメラに対して、肖像権に抵触しない、プライバシー保護のために架空の顔が生成されていく事態を記録した作品が、iPadの画面をフレーム本体に見立てたポートレートである」。つまり架空の肖像画なのだ。

Landscape

Landscape

ソノラ砂漠の国境上を歩く


 その他、ゲームの仮想空間の風景を被写体に選び、感光乳剤を塗布したパネルに投影し撮影した「Landscape」。

 Google mapの写真と地表の標高データをプログラムによって組み合わせ、数値を調整しながら、デジタルの仮想空間を作成している「ソノラ砂漠の国境上を歩く」。

 仮想を現実と見紛う作品に仕立てている相川勝の展示が極めて刺戟的だ。

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相川勝展「SUBSTANCE

2022年11月5日(土)―11月26日(土)

12:00-19:00(日月祝日休廊)

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eitoeiko

東京都新宿区矢来町32-2

電話03-6873-3830

http://www.eitoeiko.com

地下鉄東西線神楽坂駅矢来口より徒歩5分

 

 

黛まどか『句集 北落師門』を読む

 黛まどか『句集 北落師門』(文學の森)を読む。面白かった句を拾う。

 

竹煮草いづくで憑きしひだる神

 

夏柳風の縺れを雨に解き

 

 

「ひだる神」は、『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』によると、

 

だり神ともいう。憑物 (つきもの) の一種。民間伝承上の一種の霊気で,人里離れた山路などに浮遊して旅人などを悩ますといわれている。空腹時に,これに憑かれると,たちまち身体に倦怠を覚え,歩行不能となって,ついには死ぬと信じられている。また,これにとり憑かれたときには,飯を一粒でも食べるとなおるといわれる。

 

 句集の題名の「北落師門」について、「あとがき」に次のように記す。

 

 タイトルの「北落師門」は、南のうお座の主星フォーマルハウトの中国語名だ。旧都長安の城の北門を指す。別名「秋のひとつ星」。明るく輝く星が少ない晩秋の夜空にあって、南天にぽつんとともる孤高の星だ。クルーズ船で出会った元船長の石橋正先生に教えていただいた。以来北落師門は私の心にともり、輝き続けている。句集名を『北落師門』とした所以である。

 

 また、こうも書いている。

 

俳句を始めてから今日まで私はどの協会にも属さず、俳壇とは距離を置いて独自で行動してきた。

 

 すると、黛は自分のことを「孤高」の星になぞらえているのだろう。句集を1冊読んだが、拾うべき句は少なかった。「孤高」と称するのは僭越だろう。「弧」ではあっても「高」ではない。

 関川夏央は『現代短歌 そのこころみ』(集英社文庫)で、黛について、

 

94年にデビューした俳句の黛まどかは、「 "これくらいなら自分にもつくれそう" という敷居の低さ」(斎藤美奈子)すなわちヘタクソで受けたのだし、98年長野冬季五輪の折に彼女の俳句を紙面に連載させたのは朝日新聞の「おじさんたち」であった。理由はたんに「美人」であったから、につきる。

 

 と手厳しく書いていた。

 

 

 

東京都美術館の岡本太郎展を見る



 東京上野の東京都美術館岡本太郎展が開かれている(12月23日まで)。美術館の地下、1階、2階の3つのスペースを使って、絵画と立体150点以上の作品が展示されている。チケットは日時指定の前売券が主で、私もネットで予約して見に行った。

 思ったほど混んではいなかったが、大量の岡本太郎が見られた。今までも岡本太郎美術館や、岡本太郎展は何度か見ているが、これだけまとめて見たのは初めてだった。

 岡本太郎の作品について、絵画と立体を分けて紹介する

「痛ましき腕」



 まず絵画のつまらなさに改めて驚いた。ここまでひどいとは思わなかった。色彩感覚も良くないし造形的にも見るべきものがない。中では「痛ましき腕」が良い方の部類に入ると思うが、キャプションにはこれが再制作だということは書かれていなかった。この絵の下絵をトレースしたのは池田龍雄氏で、戦前岡本太郎が描いた作品の小さな白黒写真に升目を引いて拡大したと池田氏が語っていた。岡本はそれに着彩したのだった。再制作のため、他の作品のように何度も塗り重ねることがなく、岡本作品としてはすっきりしている。



 次に立体作品もたくさん並んでいた。立体作品をこれだけまとめて見たのも初めてだった。立体作品もつまらなかった。空間構成をどこまで考えていたのだろう。岡本は本来平面の作家だと思えば、立体の空間構成が弱いのも不思議ではないが、その割に立体の作品数が多いのは大阪万博の「太陽の塔」の成功体験からだろうか。

 一言で言って岡本太郎の作品は絵画も立体も無残だった。なぜこんな2流の作品しか制作しなかった作家がこんなに人気があるのだろう。恐らく大阪万博で「太陽の塔」を展示したことが第1の理由だろう。大坂万博は日本国民の半分が見に行ったという。その会場にそびえたつコケシのお化けのような「太陽の塔」は印象に残っただろう。第2の理由は岡本太郎サントリーのテレビCMに登場して「芸術は爆発だ」と無意味なことを叫んだことだ。これは日本中の視聴者が何度も何度も目にさせられた。

 万博とテレビCMによって岡本太郎は超有名人になった。作品の良し悪しは誰も分からない。観客はみな超有名な岡本太郎の芸術作品とやらを見に行ったのだ。ほとんどパンダを見物に行くのと変わらないだろう。

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岡本太郎

2022年10月18日(火)―12月28日(水)

9:30-17:30(月曜休廊)

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東京都美術館

東京都台東区上野公園8-36

ハローダイヤル050-5541-8600

https://taro2022.jp

 

櫻木画廊の中津川浩章展を見る

 東京谷中の櫻木画廊で中津川浩章展「表現の森を歩く」が開かれている(11月27日まで)。中津川は1958年静岡県生まれ。和光大学で学び、個展をギャラリイK、パーソナルギャラリー地中海などで数回ずつ開き、その他、ギャラリーJin、ギャラリー日鉱、マキイマサルファインアーツ、Stepsギャラリー、櫻木画廊、ギャラリーナユタ等々で開いている。



 中津川はほとんど1色を使って指で描いている。抽象的作風だが、よく見れば舟や樹木や、何か具象的なイメージが描かれている。描きなぐったような線の中から豊かなイメージが現れてくる。その線がまた美しいと言っていいだろう。

 私見では、中津川はトップクラスのベテラン画家ではないだろうか。毎回の個展でぶれがなく、高い水準を示している。

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中津川浩章展「表現の森を歩く」

2022年11月16日(水)―11月27日(日)

11:00-18:30(月・火曜休廊)

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櫻木画廊

東京都台東区上野桜木2-15-1

電話03-3823-3018

https://www.facebook.com/SakuragiFineArts/

JR日暮里駅南口から谷中の墓地を通って徒歩10分

東京メトロ千代田線千駄木駅1出口から徒歩13分

東京メトロ千代田線根津駅1出口から徒歩13分

SCAI THE BATHHOUSEの前の交番横の路地を入って50mほどの左側