サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』を読む

 サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』(新潮社)を読む。サリンジャーが戦前から戦後すぐの頃発表した短篇8つと戦後に発表した中篇「逆さまの森」が金原瑞人の新しい訳で収録されている。

 「逆さまの森」はこれまでも「倒錯の森」の題で訳されている。8つの短篇のうち6つが戦前に発表されたもので、戦争が終ったとき26歳だったサリンジャーにとって、いずれも習作と言うべき完成度。それに対して戦後に発表した「彼女の思い出」と「ブルー・メロディ」はひと皮むけていると言っていいだろう。

 「彼女の思い出」は若いころウィーンで知り合ったユダヤ人の娘の住まいを戦後訪ねていく話。ちょっと「エズメ」を思わせる佳品。「ブルー・メロディ」は黒人のジャズ歌手ベッシー・スミスがモデルで、交通事故で重傷を負ったベッシーが近くの病院で黒人を理由に治療を断られ、手遅れになって亡くなったことを短篇小説に仕立てた。

 総じて若書きの印象が強く、少々期待外れだった。サリンジャーが亡くなったとき、金庫に書き溜めた小説が何篇も残っていたとニュースが報じていた。早くそれらを読みたいと切に思う。

 あと、サリンジャーって村上春樹と似た味がすると改めて思った。まあ、春樹がサリンジャーの影響を受けているのだろうけど。

 

 

 

ギャラリー檜Bの飯沼知寿子展を見る

 東京京橋のギャラリー檜Bで飯沼知寿子展「Noise」が開かれている(9月3日まで)。飯沼は1984年神奈川県生まれ、2010年に東京造形大学大学院造形研究科を修了している。2010年にトキ・アートスペースで初個展、その後もトキ・アートスペースやギャラリー檜などで個展を開いて来た。今回「Chatterbox III-変化を伴い持続する4人―」というギャラリー檜のB、C、e、Fの4つの画廊で同時開催の個展を主宰し、その一人として発表している。



 作品は筆触を重ねたオールオーバーな抽象表現主義風だが、よく見るとその中に線描で何か具象的な形態が描かれている。飯沼に訊くと洗面所を描いているという。抽象的な画面も魅力的だったが、そこに具象的な図像を重ねているのも面白かった。

 ほかにドローイングも展示していて、これも魅力的だったが、ドローイングの中に言葉が書かれている。言葉はそれ自体強力なメッセージを発するので、せいぜい記号的な文字のみくらいに留めた方がよくはなかったか。ドローイング自体が魅力的なのだから。

 「Chatterbox III-変化を伴い持続する4人―」と題するパンフレットも発行していて、会場でもらうことができる。女性作家4人が主にジェンダーフェミニズムについて語っていて、なかなか読みこたえがあった。

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飯沼知寿子展「Noise」

2022年8月29日(月)―9月3日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)

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ギャラリー檜B

東京都中央区京橋3-9-9 ウィンド京橋ビル2F

電話03-6228-6361

http://hinoki.main.jp

 

 

ギャラリー檜Fの間々田佳展を見る

 東京京橋のギャラリー檜Fで間々田佳展「〔満〕/〔空〕⇒間」が開かれている(9月3日まで)。間々田は1989年千葉県生まれ、2013年に武蔵野美術大学造形学部を卒業し、2015年に同大学大学院造形研究科修士課程を修了している。2016年にギャラリー檜で初個展。今回は、「Chatterbox III-変化を伴い持続する4人―」というギャラリー檜のB、C、e、Fの4つの画廊で同時開催の個展の一人として発表している。

 間々田の言葉、

 

「間」とは、時間や空間のあいだ、すきまのことである。

多数の〔時間〕と〔空間〕が「間」を存在させている。

「間」は、満ちているのか、空なのかを探っていく。

 

 作品は鉄枠で囲まれた空間とその左右や下などに置かれた着色された層状・縞状の木の組み合わせからできている。無機的な鉄枠を前面に押し出しながら、縞状に閉じ込めたわずかな色彩を添えることで、無彩色・無機質という不愛想な世界に小気味よい否定を見せている。




 きわめて知的な作柄だ。そしてそれが同時に美的な造形でもあるというアクロバティックな作品になっているのは見事だ。

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間々田佳展「〔満〕/〔空〕⇒間」

2022年8月29日(月)―9月3日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)

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ギャラリー檜F

東京都中央区京橋3-9-2 宝国ビル2F

電話03-6228-6558

http://hinoki.main.jp

 

 

ギャラリーQの滝本優美展を見る

 東京銀座のギャラリーQで滝本優美展が開かれている(9月3日まで)。滝本は1992年、東京都生まれ、2016年に武蔵野美術大学造形学部油絵専攻を卒業し、2018年に同大学大学院造形研究科修士課程油絵コースを修了している。2016年にJINENギャラリーで初個展、以来コバヤシ画廊などで個展を続けている。その他シェル美術賞やトーキューワンダーウォールなどに入選している。

 滝本はパレットナイフで描いている。住んでいる大崎あたりの風景を描いていると話してくれたことがあった。



 会場には見事な抽象作品が並んでいる。昨年は見逃してしまったが、やはり実力がある作家だと確信した。小品にも魅力的な作品があった。

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滝本優美展

2022年8月22日(月)―9月3日(土)

11:00-19:00(最終日17:00まで)

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ギャラリーQ

東京都中央区銀座1-14-12 楠本第17ビル3F

電話03-3535-2524

http://www.galleryq.info

 

 

巷房・2の遠藤加央里個展を見る

 東京銀座の巷房・2で遠藤加央里個展が開かれている(9月3日まで)。遠藤は1998年東京都生まれ、2021年金沢美術工芸大学工芸科陶磁コースを卒業し、現在同大学大学院修士課程工芸専攻陶磁コースに在籍中。今回が東京での初個展となる。

 遠藤は陶でレリーフ状のオブジェを作っている。陶でこのような軽やかな造形を造り、陶とは思えない柔らかい鮮やかな色彩を示している。



 ありそうでいながら、このような陶のオブジェは見たことがなかった。また一人有望な若い作家の誕生に立ち会うことが出来た。今後の展開が楽しみだ。

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遠藤加央里個展

2022年8月29日(月)―9月3日(土)

12:00-19:00(最終日17:00まで)

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巷房・2

東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビルB1F

電話03-3567-8727

http://gallerykobo.web.fc2.com/