サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』を読む

 サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』(新潮社)を読む。サリンジャーが戦前から戦後すぐの頃発表した短篇8つと戦後に発表した中篇「逆さまの森」が金原瑞人の新しい訳で収録されている。

 「逆さまの森」はこれまでも「倒錯の森」の題で訳されている。8つの短篇のうち6つが戦前に発表されたもので、戦争が終ったとき26歳だったサリンジャーにとって、いずれも習作と言うべき完成度。それに対して戦後に発表した「彼女の思い出」と「ブルー・メロディ」はひと皮むけていると言っていいだろう。

 「彼女の思い出」は若いころウィーンで知り合ったユダヤ人の娘の住まいを戦後訪ねていく話。ちょっと「エズメ」を思わせる佳品。「ブルー・メロディ」は黒人のジャズ歌手ベッシー・スミスがモデルで、交通事故で重傷を負ったベッシーが近くの病院で黒人を理由に治療を断られ、手遅れになって亡くなったことを短篇小説に仕立てた。

 総じて若書きの印象が強く、少々期待外れだった。サリンジャーが亡くなったとき、金庫に書き溜めた小説が何篇も残っていたとニュースが報じていた。早くそれらを読みたいと切に思う。

 あと、サリンジャーって村上春樹と似た味がすると改めて思った。まあ、春樹がサリンジャーの影響を受けているのだろうけど。