銀座蔦屋書店ギンザ アトリウムの青木野枝+山口藍「山と空」を見る

 東京銀座の銀座蔦屋書店ギンザ アトリウムで青木野枝+山口藍「山と空」が開かれている(6月21日まで)。青木は著名な抽象彫刻家。鉄の輪を組み合わせて立体作品を作っている。今回は山口藍ともども版画にも挑戦している。

 まず青木野枝を見る。青木は鉄の輪を組み合わせて立体作品を構成する。一つ一つの輪を組み上げて造形している。青木は全体の構成から発想して造形しているのだろうか? むしろ個々の組み合わせから最終的な形態に至っているように見える。版画作品にも魅力的な造形は見当たらない。

青木野枝

青木野枝


 山口藍は浮世絵や竹下夢二を現代のマンガ風に描いているようだ。とても人気があるらしいが、まとめて見たのは初めてだった。目が少女マンガのように異様に大きく描かれている。これ以上山口に興味を持つことはできない。

山口藍

山口藍


 この二人を組み合わせて展覧会を企画したのはどのようなコンセプトだったのか。人気以外二人の共通点があるのだろうか?

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銀座蔦屋書店ギンザ アトリウムの青木野枝+山口藍「山と空」

2022年6月4日(土)―6月21日(火)

※営業時間は店舗HPを確認されたい

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銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM

東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 6階

電話03-3575-7755

https://store.tsite.jp/ginza/

 

 

Oギャラリーの「現代メキシコ版画展」を見る

DM葉書



 東京銀座のOギャラリーで「現代メキシコ版画展」が開かれている(6月12日まで)。本展はプリントザウルス国際版画交流協会のメキシコとの交流展で、10名のメキシコ作家の版画が並んでいる。

 

Sergio Toledo

Nancy Valdez Ramírez

Jeannette Betancourt

Francisco Romero

Elizabeth Ross

Carolina Parra

Bea Galván Saldierna

Alejandrina Pérez Barragán

Gabriella NataxaGarcíaGonzález

Enrique Pérez Martínez

 

このうち、私はエンリケ・ペレス・マルティネスEnrique Pérez Martínezの大きな版画が面白かった。

 マルティネスは3×8=24枚の小品を組み合わせている。様々な植物、アルマジロ、虫、椅子、ペニス?、刀剣、亀、両生類などが描かれている。個々の作品も、それらの合成の仕方も面白かった。

右端部分

中央部分

左端部分


 なお、マルティネスを始め参加作家についての詳しい情報は見当たらなかった。

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「現代メキシコ版画展」

2022年6月6日(月)―6月12日(日)

12:00-20:00(日曜日11:00-16:00)

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Oギャラリー

東京都中央区銀座1-4-9 第一田村ビル3F

電話03-3567-7772

http://www4.big.or.jp/~ogallery/

 

赤瀬川原平『自分の謎』を読む

 赤瀬川原平『自分の謎』(ちくま文庫)を読む。100ページ余の薄い文庫本で、半分がイラストになっている絵本みたいなエッセイだ。5つの章があって、「目の問題」「痛い問題」「国境問題」「一つだけの問題」「強い自分、弱い自分」となっている。

 「目の問題」は、「鏡を見るのが嫌な人と、嫌でない人がいる。ぼくは嫌なので困る」とある。なぜ嫌なのかわからなかったが、よく考えたらわかってきた。「鏡を見ると、人に見られるからだ」と言う。鏡に映っているのは自分だけど、その自分という人の目がこちらを見ている。それがどうも嫌なのだ、と。

 私も鏡を見るのは嫌なのだ。鏡には不細工な顔が映っている。できれば見たくない。画廊へ行って作品を見るときに、まれに鏡を使った作品を展示している作家がいる。あれも嫌だ。自分の顔を見たくない。どうして作品を見る時に自分の顔を見なければならないのか。早々に目をそらして作品を凝視することはない。

 むかし友人がショールームの支配人をしていた時に、接客担当で数人の派遣女性を雇っていた。彼女たちの机には小さな鏡が置かれていて、化粧や服装が乱れていないようにチェックするために置いてあると支配人の友人が言っていた。しかし、彼女たちは客が来ないときは四六時中自分の顔を映して見ているんだよと教えてくれた。

 それを聞いてとても驚いたことを思い出した。まあ、接客担当に選ばれているのだから、彼女たちは人並み以上の容姿なのだろう。私のように自らを恥じることはないのだから、鏡に自分の顔が映っていても何ら嫌がるはずはない。それにしても驚いたのだった。

 支配人の友人はとてもイケメンなのだが、彼がいつも鏡を見ているとは思えない。私のように嫌ではないかもしれないが、好んで自分の顔に見入っていることはないだろう。すると、鏡を好むのは女性特有の現象なのだろうか? 

 単行本が発売された時、帯に「こどもの哲学 大人の絵本」とあったそうだ。なるほど。

 

 

 

阪本良弘『がんと外科医』を読む

 阪本良弘『がんと外科医』(岩波新書)を読む。先月読んだ坂井律子『〈いのち〉とがん』(岩波新書)の著者坂井の主治医をして膵がんの手術を担当した外科医の著書だ。阪本は肝胆膵外科の専門医。(肝胆膵とは肝臓・胆管・膵臓の略称)。肝胆膵外科とは何か、どんな手術をするのか、治療の歴史と現在、医療教育の実際が具体的に記される。外科手術がこんなにも大変なものだったのかと今更ながら驚嘆する。専門用語が頻出するが読み出すとやめられないのは著者の文章力だろう。

 冒頭「肝臓がん手術の一日」で、具体的な手術の様子が経時的に詳しく記述される。がん腫瘍のできている肝臓を切除するが、肝臓の周囲には下大静脈など太い血管が走行している。それらを傷つけないで、それより細い肝静脈をすべて切離して肝臓の背面を下大静脈から完全に浮かせることから始める。肝臓の授動(浮かせること)では地味な作業を我慢して継続した暁に、初めて肝臓を離断するステップに進むことができる。このように大きな肝腫瘍の切除で、十分な授動をせずに肝臓を離断すると、結局肝臓の奥深い部分からの出血への対応がむずかしくなり、手術時間も出血量も増加する可能性がある。まさに、急がば回れ、である。

 

 実際、欧米の手術を見学すると、日本の外科医ほどには止血にこだわらず、むしろスピード重視の傾向にある。手術室の占有時間がすなわち人件費に直結し、日本以上に数字や売り上げが重視されるために、丁寧にこつこつ手術を続けることは必ずしも評価されない。だから、欧米と日本では肝臓の手術方法は弱冠異なっていて当然である。

 

 以前、拡大左肝切除と膵頭十二指腸切除に肝動脈と門脈の合併切除と再建を必要とする高難度の手術を執刀したことがあった。がんはきれいに切除されたが、手術には15時間もかかったという。15時間の神経を集中する手術とは、外科医にとってどんなに過酷な仕事なのだろう。

 私の受けた食道がんの手術も5時間以上かかっている。その間神経を張り詰めて手術に専念した担当外科医にあらためて敬意を表したい。

 次いで、肝臓がん、胆管がん、膵がんについて解説される。私の友人も一人は肝臓がんで、もう一人は膵がんで亡くなっている。それらのがんについて詳しく知ることができた。

 終盤、「ある患者さんとの出会い」という章で、『〈いのち〉とがん』を書いた坂井律子の膵がんを担当した経緯が語られる。2冊の本を読めば、患者と担当医の双方からの見方が照合できる

 ある意味専門的な本なのに、自分ががんを患ったことを差し引いても極めて興味深い読書だったと思う。外科医への尊敬が深まったのだった。

 

 

 

ガルリHの栗原優子展を見る

 東京日本橋小舟町のガルリHで栗原優子展が開かれている(6月11日まで)。栗原は1983年東京生まれ、2008年に女子美術大学大学院修士課程美術専攻立体美術領域を修了している。2007年にガレリア・グラフィカbisで初個展、2009年にギャラリー山口、2013年、2015年、2019年と2021年にトキ・アートスペースで、2019年にギャラリーDODOで個展を開いている。

 栗原は石を彫刻して抽象的な作品を作っている。画廊左奥の大きな作品は百数十キロはあるだろうとのこと。いままでトキ・アートスペースで何度も見てきたが、こんなに大きな作品はなかったように思う。

 栗原の作品は複雑な形をしている。以前話を聞いたときに、複雑な曲面を持った作品を、石を彫りながら造形しているという。あらかじめスケッチやマケットを作っているのではないようだ。それだけに、事前に構想したのではない形が生まれているのだろう。



 奥の事務室に小品が2点置かれていた。それもとても良かった。

小品

小品

 

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栗原優子展「肯へてみえるものを」

2022年5月29日(日)―6月11日(土)

12:00-19:00(最終日17:00まで)月曜休廊

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ガルリH(アッシュ)

東京都中央区日本橋小舟町7-13 東海日本橋ハイツ2F

電話03-3527-2545

https://galerie-h.jp

東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅A1・B6出口から徒歩5分