ガレリア・グラフィカbisのLu Chin-Yun個展が興味深い

 東京銀座のガレリア・グラフィカbisでLu Chin-Yun個展が開かれている(11月30日まで)。これがとても興味深い。なお、Lu Chin-Yunはルー チンユンと読み、漢字が蘆之〇だが、〇は竹冠に均と書く。Luは1984年日本生まれ、2007年に国立台湾藝術大学美術学部彫刻科を卒業し、2011年に国立台北藝術大学大学院美術創作芸術科修士課程を修了して、2017年に東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程彫刻研究領域を卒業している。2009年から台北の画廊で個展を、2013年からは東京の画廊で個展を開き、2016年には根津のギャラリーKINGYOで個展をしている。
 画廊の天井から作品が吊り下げられている。透明なガラスにレースが貼り付けられているような印象だったが、Luに訊くと、鏡の裏側(メッキしてある側)を削り、部分的に透明にしてあるという。それでガラスを通して後ろの人や壁面が透けて見えている。額縁はLuが彫刻したもの。ほかに箱の中に蜂の巣を吊るし、表面のガラスに描いているものや、サボテン様のオブジェをガラス瓶に入れたものなどが展示されている。

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 鏡を加工した作品は何度か見ているが、裏面の反射面を加工して半透明にした作品は寡聞にして初めて見たのだった。写真ではその面白さが半減してしまう。ぜひ実物をご覧になることをお勧めする。

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Lu Chin-Yun(ルー チンユン)個展
2019年11月25日(月)-11月30日(土)
11:00-19:00(最終日17:00まで)
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ガレリア・グラフィカbis
東京都中央区銀座6-13-4 銀座S2ビル1階
電話03-5550-1335
http://www.gg-bis.com

 

 

アートトレースギャラリーでヒッシ―の作品を見る

 東京両国のアートトレースギャラリーで「進行と方法」というグループ展が開かれている(12月3日まで)。坂光敏(1977)、倉持幸子(1979)、ヒッシー(1976)、中谷真理子(1992)、前川加奈(1984)、有原友一(1976)の6人だ(数字は生年)。このうちヒッシーの立体が面白かった。
 ヒッシーは1976年新潟生まれ、2002年に武蔵野美術大学建築学科を卒業し、2007年ロンドン大学、スレード芸術大学修士課程修了、彫刻専攻。2007-2009年 ロンドン大学、スレード芸術大学、研究発展プログラム。
 画廊の中央に自然石のような作品が置かれている。これがヒッシーの作品だった。許可を得て持たせてもらうと意外に軽い。訊けば紙でできているという。大量の新聞紙をシュレッダーにかけ水に漬けて濡らしたものを袋に入れて固く絞る。それを1カ月以上長時間かけて乾かして取り出す。
 形態はほとんど自然石だ。絞った時の皺が自然で人工物に見えない。しかしこれが紙なのだ。長く美術作品を見てきたが、こんな風に制作している作品は初めて見た。とても面白い。

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 ヒッシーは他に事務所内の小部屋に平面と彫刻作品を展示しているが、つい撮影するのを忘れてしまった。ヒッシーの本名は菱沼輝充とのこと。最近の若者はなぜこんな変な名前を名乗るのだろう。
 ヒッシーの外の作家の作品は、

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倉持幸子

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中谷真理子

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前川加奈

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有原友一

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坂光敏
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「進行と方法」
2019年11月18日(月)-12月3日(火)
12:00-19:00(会期中無休)
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アートトレースギャラリー ART TRACE GALLERY
東京都墨田区緑2-13-19 秋山ビル1F
電話050-8004-6019
http://www.gallery.arttrace.org/
JR 両国駅 東口 徒歩 9分、都営大江戸線 両国駅 A5出口 徒歩 5分

 

ギャルリー東京ユマニテbisの石井紀湖展「森の迷宮」を見る

 東京京橋のギャルリー東京ユマニテbisで石井紀湖展「森の迷宮」が開かれている(12月7日まで)。石井は東京藝術大学彫刻科を卒業し、大学院を修了している。最近はうしお画廊で個展をしているが、その前はみゆき画廊で、さらにその前はギャラリー山口で個展をしていた。そのギャラリー山口が閉廊して、同じ場所にギャルリー東京ユマニテが営業しているので、石井にとっては古巣へ帰ってきた気分かもしれない。それにしても石井は二タ月前にうしお画廊で個展をしたばかりだ。旺盛な創作力というべきか。
 今回はユマニテbisという小さな空間なので、大きな作品が1体だけだ。画廊の中央に鎮座しているが、空間に可不足なく収まっている印象だ。石井が書いている。「今、地球環境はひどくなって生きにくくなってきました。この数年、私は森を思っています」と。

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石井紀湖展「森の迷宮」
2019年11月25日(月)-12月7日(土)
10:30-18:30(最終日17:00まで)12/1(日)休廊
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ギャルリー東京ユマニテbis
東京都中央区京橋3-5-3 京栄ビルB1
電話03-3562-1305
https://g-tokyohumanite.com
警察博物館LIXILの間の道を入ってすぐの右手

 

 

山本弘の作品解説(92)「河童」(仮題)

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 山本弘「河童」(仮題)、油彩、F4号(33.5cm×24.3cm)
 制作年不詳。ただサインから晩年の作品であることが分かる。河童を描いている。背に甲羅を背負い、頭に皿が描かれている。子供のように下腹が膨らんでいる。ユーモラスな姿だ。
 山本は絵は売れなかったと思う。色紙に河童を描いて売っていたが、それはよく売れたようだ。飯田市では河童の弘さんと呼ばれていたという。河童を描くのは手慣れたもので、色紙のほか、油彩でも何点も見ている。
 右手に笹を持っている。よく見ると甲羅には筆の反対側で甲羅を線描している。山本は酒癖が良いとは言えなかったが、ユーモアのある面白い人だった。それがこの絵によく現われている。

 

川合光『はじめての《超ひも理論》』を読んで

 川合光『はじめての《超ひも理論》』(講談社現代新書)を読む。副題が「宇宙・力・時間の謎を解く」とある。一応読んだと書いたが、実は極めて難解な本で、内容はほとんど理解できなかった。ところどころ興味をひかれた部分があったくらい。もう多次元宇宙が当たり前のような感じに書かれている。
 で、ここでは難解な内容ではなく、ブックデザインについて触れてみる。本書は2005年12月20日の奥付があり、私はその翌日購入している。以来、14年間本棚に差されたままだった。その間に大きく変わったことがある。この講談社現代新書の背表紙のデザインだ。ちょうどこのころこの現代新書のカバーデザインが新しくなった。それまでのカラフルな杉浦康平のデザインに代えて中島英樹のシンプルなデザインに変更した。表紙は白地に墨のタイトル、中央に大きく青とか茶とかの四角を置いた。同じ色で背表紙を刷り、タイトルや著者名を白く抜いた。表紙の四角や背表紙の色は本によって何色も使った。書店の本棚に並べるとカラフルで「クレヨン箱のよう」と編集部が自賛していた。
 ところが書店で見ると、雑多な色合いが講談社現代新書シリーズという統一感を与えなかった。岩波新書中公新書のようなまとまりが感じられなかった。おそらく講談社でもそれは気づいたらしく、しばらくしてまたデザインが大幅に変わった。背表紙だけだが、白地にして中央に表紙と同じ色の四角を置いたデザインにしたのだった。それが現在も踏襲されているデザインだ。
 私が持っている川合光『はじめての《超ひも理論》』はその過渡期のデザインのものだった。ほかにもまだ読んでないが、永井等『私・今・そして神』も同じデザインだ。これは2004年10月発行となっている。すると、このデザインを2、3年は続けていたのだったか。そしてある時、講談社の営業マンが恐らく大量のバイトも動員して全国の書店の講談社現代新書のカバーを一斉に取り換えたのだろう。やれやれ……。

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私の本棚の講談社現代新書(川合光と永井均だけが古いデザイン)

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書店の講談社現代新書の棚

 

 

はじめての〈超ひも理論〉 (講談社現代新書)

はじめての〈超ひも理論〉 (講談社現代新書)