コバヤシ画廊の村上早展を見る

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 東京銀座のコバヤシ画廊で村上早展が開かれている(10月5日まで)。村上は1992年群馬県生まれ。2014年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画専攻を卒業し、2017年同大学大学院博士後期課程中退。2016年ワンダーウォール都庁で初個展、ついでコバヤシ画廊、東京オペラシティアートギャラリー、アンスティチュ・フランセ東京ギャラリー、中国北京のギャラリーなど各地のギャラリーで引っ張りだこだ。
 受賞歴も2014年のシェル美術賞展入賞、FACE2015の優秀賞、山本鼎版画大賞展で大賞、トーキョーワンダーウォール公募2015のトーキョーワンダーウォール賞、群馬青年ビエンナーレ2016優秀賞、アートアワードトーキョー丸の内2016フランス大使賞など、輝かしい実績を誇っている。上田市立美術館で個展も開かれた。
 今回は特に大きな作品を展示している。「いぬがたのきず」と題された作品は、3×7枚=21枚の版を使っている。手術台の上の犬だろうか。その大胆にデフォルメされた単純な構図と、イメージが発するメッセージ、それは単純なそれではなく曖昧さを含み、多層的な意味が読み取れる、そのような魅力的な作品になっている。

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「いぬがたのきず」

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 今回で4回目になるというコバヤシ画廊での個展を見てきて、村上が表現を深化させてきているのがよく分かった。白黒の版画で豊かな世界を作っている。
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村上早展
2019年9月23日(月)-10月5日(土)
11:30-19:00(最終日17:00まで)日曜休廊、祝日開廊
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コバヤシ画廊
東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1
電話03-3561-0515
http://www.gallerykobayashi.jp/

 

 

「トークン アートセンター プレオープン展」と、ギャラリー ハイドランジアの石川真衣個展を見る

 東京墨田区曳舟トークン アートセンターでプレオープン展が開かれている(10月14日までの土日祝のみ)。墨田区曳舟駅界隈に新しい画廊が集まってきた。数年前からのあをば荘、去年オープンしたTOWED、最近オープンした文華連邦などだが、今度トークン アートセンターが加わった。そのプレオープン展に行ってみた。
 今回10人の作家たちが参加しているが、その概略を紹介する。

赤羽史亮
1984年長野県生まれ、2008年武蔵野美術大学油絵学科卒業

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永畑智大
1983年東京都生まれ、2010年武蔵野美術大学造形学部彫刻科卒業

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長谷川維雄
1988年東京都生まれ、2014年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了

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高橋臨太郎
1991年東京都生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科博士課程在籍

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関真奈美
1990年東京都生まれ、2013年武蔵野美術大学造形学部彫刻科卒業

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東山詩織
1990年兵庫県生まれ、2016年東京藝術大学大学院美術研究科修了

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糸川ゆりえ
1988年三重県生まれ、2014年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程修了

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村田啓
1990年新潟県生まれ、2016年東京藝術大学大学院美術研究科修了

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伊阪柊
1990年奈良県生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科博士課程在籍

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 ほかに阪中隆文(1989年東京都生まれ、2013年多摩美術大学映像演劇学科卒業)の映像作品があった。
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トークン アートセンター プレオープン展」
2059年9月21日(土)~10月14日(月・祝)
12:00~19:00(土日祝のみ開廊)
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トークン アートセンター
東京都墨田区東向島3-31-14
http://token-artcenter.com/
東武スカイツリーライン曳舟駅より徒歩10分
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 トークン アートセンターを出て真向かいに別の画廊があった。そのギャラリー ハイドランジアでは石川真衣個展が開かれている(9月30日まで)。ここも初めて来たギャラリーだった。石川は銀座フォレストやギャラリー・b・トウキョウなどで個展を見てきた。ほかにアートコンプレックスセンターやギャラリーSPEAK FORで個展を開いている。

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 今まで美術が不毛の地ではないかと残念に思っていた曳舟周辺に新しい画廊が次々にオープンしてとても嬉しい。曳舟は自宅から自転車で行かれる場所なのだ。
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石川真衣個展
2019年9月19日(木)~9月30日(月)
13:00-18:30(最終日17:00まで)火・水曜日休廊
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ギャラリー ハイドランジア
東京都墨田区東向島1-3-5
電話03-3611-0336

 

 

nohakoのさとう陽子展「世界と、そのままに紡ぐ」を見る

 東京江古田のギャラリーnohakoでさとう陽子展「世界と、そのままに紡ぐ」が開かれている(10月13日までの金・土・日)。さとうは1958年東京生まれ。1981年に日本大学芸術学部美術学科を卒業している。1986年から毎年様々なギャラリーで個展を開いて活発に活動している。

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上の作品の一部

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上の作品の一部

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 ゲシュタルトでいう図と地をさとうの絵画に当てはめてみると、図と地で成り立っているように見えて、その地がさらに下位の地に対して図となっているように見える。地の複層性というか図の複層性というか、今風に言えばレイヤー構造をなしていると言ってもいいかもしれない。複雑な構造とマチエールの特異さがさとうの特徴ではないだろうか。
 ただそう言ってみても、そのことは作品の構造的な面を語っているに過ぎなくて、図像については別に語らなければならない。前回のS+artの個展を見たときは中西夏之の影響が大きいことに気づいたが、私がさとうの作品について語るには残念ながら力不足であることを自覚している。誰かさとう陽子論を書いてくれないだろうか。
 nohako(ノハコ)は数年前に開郎した画廊だが、年に2回ほどしか展覧会をしていないという。画廊用に設計された一戸建てで、1階と2階が展示スペースで、垂直の梯子があったり、不思議な空間になっている。
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さとう陽子展「世界と、そのままに紡ぐ」
2019年9月20日(金)-10月13日(日)
金・土・日の13:00-19:00
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nohako(ノハコ)
東京都中野区江原街2-7-16
電話070-5027-0021
http://www.nohako.com
都営地下鉄大江戸線 新江古田駅より徒歩5分

東京画廊+BTAPの菅木志雄展2ndを見る

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 東京銀座の東京画廊+BTAPで菅木志雄展2ndが開かれている(10月5日まで)。大きな作品は1994年制作のもの。ほかに1stでも展示していた小品が3点奥の小スペースに展示してあって、こちらは1983年制作のもの。
 東京画廊は3回に渡って菅の過去の作品を展示するという。今回がその第2回目。「本展では、それら過去のオリジナルの作品をアーティストが監修して再展示いたします」とある。
 鉄パイプと角材を組み合わせている。2つの部分からなっていて、角材の組み合わせ方が異なっている。外枠の矩形の鉄パイプに対して並行に角材を置いたものと、斜めに角材を置いたもので、それによって表情を変えている。

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 この作品を見ると、もの派がミニマル・アートに近く、またそれとも微妙にずれているとの印象を持つ。
 過去の作品を連続して展示してくれる東京画廊の企画にお礼を言いたい。
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菅木志雄展2nd
2019年9月21日(土)-10月5日(土)
11 :00 – 19 :00 (土―17:00)日・月・祝日休廊
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東京画廊+BTAP
東京都中央区銀座8-10-5 第4秀和ビル7階
電話03-3571-1808
http://www.tokyo-gallery.com/

 

高橋秀実『悩む人』を読む

 高橋秀実『悩む人』(文藝春秋)を読む。副題が「人生増段のフィロソフィー」とある。高橋は読売新聞の「人生相談」の回答者をつとめていたことがあった。本書はその時の相談と回答に、『文学界』に連載したエッセイ「悩む人」を組み合わせたもの。読売新聞の「人生相談」は長い歴史を持っていて、毎日掲載されている。社会の縮図にもなっていると社会学のデータとしても有効なのだと聞いた。
 朝日新聞に週1回掲載される人生相談「悩みのるつぼ」は、ユニークな回答の面白さで売っているので簡単には比べられないが、「人生相談」の高橋の回答はつまらなかった。いや、これが正統の回答かもしれないが。
 エッセイに至ってはそれに輪をかけてつまらない。以前、成毛眞が『面白い本』(岩波新書)で、高橋秀実『はい、泳げません』(新潮文庫)について、「間違いなく大爆笑してしまうので、電車の中で読むと大変なことになる。/本書は、エンタメ系ノンフィクション界ではイチオシの作家である高橋秀美が、身をもって体験した水泳教室の一部始終が書かれている」と紹介していて、期待して読んだが少しも面白くなかった。爆笑どころか微笑も浮かばなかった。そのことをちゃんと覚えていれば本書を読むこともなかったのに。その「エンタメ系ノンフィクション界ではイチオシの作家」という称号は何だったのか。

 

 

悩む人

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