佐藤鬼房の句

 毎日新聞の書評欄に小島ゆかりが『佐藤鬼房俳句集成/第1巻 全句集』(朔出版)を紹介している(81日)。 

  やませ来るいたちのようにしなやかに

 なんとしなやかで、なんとしたたかな俳句かと思う。

 

 そして他にも、

  切株があり愚直の斧があり

  鶺鴒(せきれい)の一瞬われに岩のこる

  馬の目に雪ふり湾をひたぬらす

  陰(ほと)に生(な)る麦尊けれ青山河

  吐瀉のたび身内をミカドアゲハ過ぐ

  宵闇のいかなる吾か歩き出す

  雪兎雪被(き)て見えずなりにけり

  みちのくは底知れぬ国大熊(おやぢ)生く

  残る虫暗闇を食ひちぎりゐる

  混沌と生き痩畑を耕せり

  をしくも死取り逃がしたる去年今年

  暖かな海が見ゆまた海が見ゆ

 

 「陰に生る麦」は古代神話のオオゲツヒメの故事だという。

 鬼房の俳句をもっと知りたくて、『証言・昭和の俳句 下』(角川選書)を開いた。そこに鬼房自選50句が載っている。

  怒りの詩沼は氷りて厚さ増す

  跳ぶ幼女水かげろふの向岸

  新月や蛸壺に目が生える頃

  綾取の橋が崩れる雪催

  老衰で死ぬ刺青の牡丹かな

  秘仏とは女体(じょたい)なるべし稲の花

  北溟ニ魚有リ盲(メシ)ヒ死齢越ユ

 

 鬼房の句をもう少し読んでみたい。全句集は無理だけれど(14,300円もするし)。

 

 

佐藤鬼房俳句集成 第一巻 全句集

佐藤鬼房俳句集成 第一巻 全句集

  • 作者:佐藤 鬼房
  • 発売日: 2020/04/01
  • メディア: 単行本