STEPS ギャラリー代表の吉岡まさみのレクチャーを聞く


 昨日、東京銀座のSTEPSギャラリーで、その代表かつ作家の吉岡まさみのレクチャー「略歴を書く――美術の事務作業を復習する」が開かれた。内容について予告された紙片から、

略歴の書き方・作品のデータ(タイトル、素材、サイズ、制昨年、価格)・作家名・DM等について、細かいところまでおさらいをします。「無題」というタイトルはどうなの? 素材にペンとは書かない。「号」では縦なのか横なのかわからない。額のサイズは日本とヨーロッパでは違う。などなどかなり突っ込みを入れます。

 想定している聴衆は若い作家たちらしいが私も興味ある分野なので参加した。
 まず略歴の書き方について。「生まれ」と「出身」はどう違うのか。生まれは文字通り生まれた場所だが、生まれて数か月で転居して、その育った場所の方が思い入れが強いなどのときは、その育った場所を出身として表記することも可能とのこと。井上ひさしが山形生まれなのに、宮城県出身としているように。
 学歴はふつう最終学歴のみでよく、入学年などは省く。日本では中退を書くことも可能だが、アメリカでは中退はマイナスイメージなのでふつうは書かない。在学中の場合は、在学中と書く。
 展覧会歴については、個展とグループ展を分けて書き、多い場合は「主な個展」等とする。多く書いている事例を見るが、見る側にとっては煩わしいだけだ。グループ展は主要なものに絞る。会場の所在地は首都や県庁所在地はそのまま、それ以外はふつう県名などを入れる。(吉岡画廊/船橋市・千葉)のように。海外もこれに準ずる。
 若い作家で展覧会歴の少ない場合は、紙の上部だけで情報が完結してしまうことが多い。そんなときは下部の白い部分を切り取らずに白いままにしておく。画商側から見れば、白い部分が多いということは未来があるということだ。
 つぎに作品データについて。お客目線でとらえるようにと言う。タイトルの「無題」より題名を記したほうが客は喜ぶから題名も作品の一部として考えること。素材を書く。キャンバスに油彩とか、紙にインクとか。「パネル」はダメ、パネルの上に紙を貼っているなら「紙」だし、板に直接描いているなら「板」になる。ペンは筆記具だから、インクとする。ミクスト・メディアも何を使っているのか分からないので避けて、具体的に「油彩、オイルパステル、木片、その他」などと記す。
 サイズは縦〇センチ、横〇センチなどとする。縦を先に書く。欧米ではインチで表している。「号」は海外では通用しないし、一般客には具体的な寸法を示したほうが自宅の設置場所との絡みから分かりやすい。なお、「サムホール」をSMと表記しているが、これは親指の穴thumb holl からきているので、正確にはTHのはずだ。
 制昨年はふつう作品が完成した年を書く。作家名の表記を英文で書く場合、YOSHIOKA Masamiのように姓名の順で書くことを推奨している。しばしば名・姓とする例が多いが、韓国籍のリ・ウーファンだって姓名で通している。その時、どれが姓か分かりやすいように姓を大文字で書くなどする。
 サインはあったほうがいい。油彩では表面でもいいしキャンバスの裏でもいい。額の裏面に貼付したり書いたりする例もあるが、額は交換されることもあるから薦められない。
 DMについて。客はDMを見て来るから重視しなければいけない。葉書が多いが、葉書の表は切手を貼る側で、写真を入れたりする側が裏面という。DMを制作依頼するデザイナーとのやり取りなどで混乱しやすい。ハガキの表面には「郵便はがき」とか「POST CARD」の文字を入れるが、これは郵便法から必須となる。縦横のどちらを上にしてもいいが、表裏を合わせる。裏は縦位置で表は横位置というのは見苦しいから避ける。「吉岡まさみ展」と書いていたが、最近は「吉岡まさみ」として「展」を省くのがおしゃれ。
 コンセプトという言葉について。「作品のコンセプト」という使い方は間違っている。コンセプトとは哲学用語で「概念」という意味。作品にコンセプトなどなくて、あるのはテーマ(主題)だ。もっとも誤用は日本だけではないという。吉岡は「コンセプチュアルアート」も少しおかしいという。本来はアイデアアートだろうと。しかしこれも海外で使われている。
 以下、私の見解。コンセプトの言葉はおそらく広告業界から広まったのではないか。広告業界では商品の広告を企画するときにまず「コンセプト」を考える。その商品の訴求点アピールポイントをコンセプト(商品特性を短い言葉で表した言葉)という。古い例だが、初めて赤ちゃんを撮るお母さんを対象に商品開発をしたキャノンの一眼レフEOS kissの場合、おそらく「初めて赤ちゃんを撮るお母さんの一眼レフ」というのが商品コンセプトだったのだろうと推測する。そこからコンセプトという用語が一般社会に広まったのだろう。
 あと、版画のエディションで、「A.P.」と書かれているものがあり、これは作家の保存分「Artist Proof」であることは知っていたが、エディション・ナンバーの入っているものに比べて、少し値が下がるということは初めて知った。
 とても有意義なレクチャーだった。何しろ吉岡は作家にして画廊主、何より以前は学校の美術教師だったのだ。参加料は300円で、終わったあとワインが振舞われた。きわめて高コストパフォーマンスだった。