斎藤憐の音楽劇「アメリカン・ラプソディ」

 斎藤憐・作の音楽劇「アメリカン・ラプソディ」を座・高円寺という劇場で見た。演出が佐藤信、出演が高橋長英と関谷春子、ガーシュイン役で終始ピアノを弾いていたのがジャズピアニストの佐藤允彦だった。つまりこの芝居はガーシュインを描いたもの。ガーシュインの友人であるヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツと女性作曲家のケイ・スウィフトの往復書簡で芝居が進められる。これは役者が台本を手にして台詞を読むリーディング・シアター形式だった。
 至福の時間だった。佐藤信佐藤允彦という大好きな演出家とピアニスト、それにガーシュインの曲が次々と弾かれた。プログラムに載っているだけで12曲、スワニー、ラプソディ・イン・ブルー、ス・ワンダフル、パリのアメリカ人、アイ・ゴット・リズムなど。サマータイムは関谷春子が歌ってくれた。さらにガーシュイン以外の曲も、セントルイスブルースとかボレロとか柳よ泣いておくれとか、たくさん聴くことができた。
 ガーシュインハイフェッツはどちらもロシア系ユダヤ人の移民の子供なんだそうだ。禁酒法は酒屋に多かったユダヤ人への嫌がらせだというし、南部の海岸には犬とユダヤ人入るべからずと書かれた看板があったという。
 ガーシュインの曲は大衆には圧倒的に支持されたもののクラシックの批評家たちの評価はさんざんなものだった。出演者が黒人だけというオペラ「ポギーとベス」の初演は失敗だった。そして37歳の若さで亡くなってしまう。
 佐藤信の演出は簡潔で良かった。ちょっとだけ不満は斎藤憐の台本、二人の往復書簡がガーシュインの生活を淡々と報告し合うだけで、切り結びあうことがない。ガーシュインは多くの女性たちと関係を持ち、夫と子供のいるケイ・ウェストも愛人になり、さらにチャップリンの愛人とも関係を持つ。これらのことが大きな葛藤もないかのように語られる。
 初めて入った座・高円寺は良い空間だった。地方自治体は大きな劇場ではなく、こういう小振りな空間をこそあちこちに作るべきではないか。