美しい尻?


 昨日紹介した大塚英子「夜の文壇博物誌」(出版研)にこんな一節がある。

「この子のお尻、すっごくカッコいいのよ。キュッと上がっていて、丸くって、こんなお尻あたし初めて見たわ」
 古川裕子(ママ)がそう言って、安部公房氏の前に私を立たせた。
 安部氏は、私のヒップを入念に触わり、おっしゃった。
「本当だ。丸っこくて、キュッと上がってる。いいなあ。ミス・お尻コンテストってないかなあ、もしあったら絶対にこの子優勝するよ」
「ほんと、ほんと、絶対に優勝するわ。ねえ、吉行先生もそう言ってるでしょ」
 私は答えた。
「別に……」
 安部氏が大きな声で言った。
「あっ、気がついていないのかなあ。もし気がついていないとしたら、宝の持ちぐされってわけだよ。もったいないなあ」
 私は吉行にその話を報告した。
「何言ってるんだ。わかっているに決まっているじゃないか。あんなヤツにそんな言われ方をされたくないな」
 吉行はそう言って、ポラロイド・カメラで私の裸身を写したのだった。それは証拠物件として、いまも私の引き出しの中に大切にしまってある。

 そのポラロイド・カメラで写した大塚英子の裸身の尻の部分をトリミングしたのが表紙に使われている写真なのだろう。どこにも書いてないけれどおそらく間違いあるまい。

 でもそんなにいいお尻だろうか。ちょっと小振りなんじゃないだろうか。黒人の尻は別にして、ゴダールの「軽蔑」の冒頭のブリジット・バルドーの尻は感動的だった。まあ、「軽蔑」を見たのが私が高校生だった時で、お尻なんて見たのは初めてだったから。