先日「車谷長吉の危ない身の上相談」(2009年6月14日)でこの作家の変さ加減を紹介したが、本当に変な作家なのだ。芥川賞の候補になって落選したのを恨んで選考委員の藁人形を作ったとか、特に強く受賞に反対した日野啓三が亡くなったときは赤飯を炊いて祝ったという。
その後直木賞を受賞したが、「直木賞受賞修羅日乗」にも「男子の本懐と言うか、男の花道と言うか。兎も角、これで私も男になれたのだ。」なんて書いている。誰それが祝に現金をいくらくれたということまで、実名と金額が書かれている。「澤井芳江さんから身の丈78糎(センチ)もある大鯛を送ってくるが、うちでは三枚に卸せず、厄介なものを送ってくる女だ。」(翌日)「順子ちゃん(車谷夫人)が近所の魚屋へ鯛を持っていったら、すでに腐っていた。」
この人は自意識がない近代以前の人なのだろう。三島由紀夫が「潮騒」で描きたかった世界を車谷はやすやすと実践しているかのようだ。いやそれが悪いというのではないが。
田口久美子「書店風雲録」(ちくま文庫)にも車谷が顔を出す。堤清二が車谷の才能を高く買って、仕事がない彼をリブロ(書店)の店員にしたらしい。おしゃれな池袋西武デパート内の書店の入り口に、下駄履き、腰手拭い、坊主頭で仁王立ちしていたという。