動物は困らないか?

 いがらしみきおの「ぼのぼの」第2巻(竹書房、1987年発行)で、ぼのぼのが困る状況が語られる。

ぼのぼの  アライグマくん
アライグマ  あ?
ぼのぼの  ボクお腹がすいて またこまるかもしれないなァ
アライグマ  こまりそうになったらサカナを食えばいいじゃねえか
ぼのぼの  ボ…ボク 自分でサカナをとれないなァ
アライグマ  おまえらアレだろ オレをこまらすために生きてんだろ ちがうか? とにかくもっと早く歩けえ バカヤロめ


アライグマ  だいたい こまるのをなんでそんなにこまってるわけ? 生きていくのって むずかしいとか思ってるわけ?
アライグマ  むずかしいって誰かに言われたからむずかしいと思ってるんじゃないの? メシくって動きまわって寝て メシくって動きまわって寝て
アライグマ  死ぬ時がきたら死ぬしかないんだよ それのどこがむずかしいんだよ え?
ぼのぼの  じゃあ ボクはどうしてこまるのかな?
アライグマ  そ…それはだな?
アライグマ  それは……
アライグマ  あ〜…
アライグマ  こまりたくない こまりたくないと思うからこまるんだァ
ぼのぼの  え? ホントォ?
アライグマ  あ…あァ(あまり自信がない)
ぼのぼの  (アライグマくんてスゴイ)
アライグマ  (すごく自信がでた)
ぼのぼの  そうかァ じゃあ こまりたくない こまりたくないと思わなければこまらないんだね?
アライグマ  そォ〜〜〜
ぼのぼの  よーし そうか?


アライグマ  なんだよ おまえ どうしたんだ
ぼのぼの  ア……アライグマくーん ボクまたこまってきたよ
シマリス  ぼのぼのちゃん だいじょうぶ? しっかりしてぼのぼのちゃん
アライグマ  よしっ シマリス おまえ川に行ってサカナをとってこい
シマリス  うん
アライグマ  (あいつサカナをとれるのかなと思っている)
シマリス  だめなの。とれなかったの。
アライグマ  ぼのぼの しっかりしろよオイ
シマリス  ぼのぼのちゃん しっかりっ


スナドリネコ  (貝をなげる)
ぼのぼの  あっ 貝だ
ぼのぼの  あっスナドリネコさんだ どうしてボクたちのことがわかったの?
スナドリネコ  それは秘密です
スナドリネコ  じゃ そーゆーことで
スナドリネコ  いいから早く食べなさいね ウンウン
スナドリネコ  どうだ おちついたか?
ぼのぼの  うん
スナドリネコ  ぼのぼの 生き物は 絶対 こまるんだよ
スナドリネコ  生きてる限り 絶対 こまるんだよ
スナドリネコ  こまらない生き方なんか 絶対 ないんだよ
スナドリネコ  そして こまるのは 絶対 おわるんだよ
スナドリネコ  どうだ 少しは安心してこまれるようになったか?
ぼのぼの  うん
スナドリネコ  よし じゃあ帰ろう
ぼのぼの  うん

 長い間(初めてこれを読んでから20年間)、スナドリネコさんの「生き物は 絶対 こまるんだよ」という台詞を「動物は困らないんだよ」と憶えていた。私は動物だから困らないんだと思っていた。そして実際困らなかった。友人が、お前ちっとも困ってないようだけど、たくさん蓄えがあるんだろうと言う。いや、このくらいだよと答えると、お前、そんなんでよく困らないなあと呆れられた。
 いや、動物は困らないんだよと思っていた。

ぼのぼの 2 (バンブー・コミックス)

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