ミュゼ MATSUIDAの柴田和展を見る

 群馬県安中市のミュゼ MATSUIDAで柴田和展が始まった(12月15日まで)。柴田は1934年生まれ、帝国美術学校(武蔵野美術大学の前身)を卒業。1960年代、美術グループ乱立の時代はネオ・ダダのメンバーらとも一緒に活動していた。1963年、最後の読売アンデパンダン展で出品拒否を受ける。翌年から空間創りを街中に移し、環境美術の提唱者となる。しかし、大阪万博前後から渓流釣りのフライフィッシングにのめりこんでいく。それが20年前後も続いた。その間もデザインと設計建築の会社を経営し、シバ・アートというギャラリーも開いていた。しばらく作品の発表からは遠ざかっていたが、ここ10年来再び都内のいくつもの画廊で個展を始めている。

ギャラリー入口


 今回は柴田の作品のひとつである箱型の作品を集めている。その数61点、柴田の箱型アートの集大成となっている。もっとも柴田によればこの3倍も作ったというが。これだけ多数が展示されれば柴田の箱型アートの多様性がよく分かる。ぜひ見てもらいたいと思うが、ミュゼ MATSUIDAは群馬県安中市の横川駅からさらに徒歩数分の位置にある。ギャラリーが作ったちらしの住所はGoogle mapには示されない。ちらしには地図も掲載されていない。旧松井田西中学校の跡地なので、「旧松井田西中学校跡」で検索すると表示される。横川駅は峠の釜飯で有名な駅弁の駅である。1杯1200円。

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柴田和展

2022年12月1日(木)―12月15日(木)

10:00-17:00

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ミュゼ MATSUIDA

群馬県安中市松井田原60-1(旧松井田西中学校)

電話090-7402-1784(長尾)

 

養清堂画廊の渋谷和良展を見る

 東京銀座の養清堂画廊で渋谷和良展が開かれている(12月10日まで)。渋谷は1958年東京生まれ、1981年に東京藝術大学美術学部油画科を卒業し、1983年に同大学大学院美術研究科版画専攻修士課程を修了している。2002年から1年間、文化庁在外派遣研修員としてドイツベルリン芸術大学およびマールブルグ大学にて研修。1996年に柳沢画廊で初個展、その後ドイツや日本各地の画廊で個展を行い、最近はコバヤシ画廊と養清堂画廊で個展を開いている。9月にコバヤシ画廊で個展をしたばかりだが、養清堂画廊では版画展を開いている。



 渋谷はリトグラフを制作している。抽象的な作風だが、激しさが感じられる。アトリエが三浦半島の海に面したところに建っていて、海が荒れたときなどは目の前に激しい波が打ち寄せると聞いたことがあった。渋谷の内にその激しい海に同調する心情があり、それが作品にも反映しているのだろうか。

 大小2枚の作品を並べて額装している作品があって、興味深い展開だと思った。

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渋谷和彦展

2022年11月28日(月)―12月10日(土)

11:00-18:00(最終日は15:30まで)日曜休廊

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養清堂画廊

東京都中央区銀座5-5-15

電話03-3571-1312

https://www.yoseido.com/

 

 

 

ギャラリーなつかの胡羽恬展を見る

 東京京橋のギャラリーなつかで胡羽恬展「花の遊吟」が開かれている(12月3日まで)。胡羽恬は1994年中国浙江省杭州市生まれ、2016年に景徳鎮陶磁大学陶芸コースを卒業し、現在金沢美術工芸大学大学院博士後期課程陶磁分野に在学中。2021年ギャラリーQで初個展

 胡羽恬の言葉を引く。

 

遊吟とは、散策しながら詩歌を作り、吟じることです。(……)「遊吟」の詩意表現によって醸成された造形観、色彩観をそこに結びつけます。手捻りの手法で陶造形を形成し、釉薬や絵具、焼成方式を複合的に組み合わせながら常に流動し捉えどころのない自然現象を再現し、造形と調和させることによって、人間と自然の「対話」のありを追求します。

 


 胡羽恬の造形はさながら波の動きを思わせる。1枚の板に見えるが、実は中空になっていて、見かけより軽いという。複雑な形を手捻りで作り、釉薬の工夫や籾殻を一緒に焼いたりして偶然の要素も加味しているようだ。

 中国出身で金沢の大学で学んでいる若い陶作家の活躍を期待したい。

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胡羽恬(HU YUTIAN)個展「花の遊吟

2022年11月28日(月)―12月3日(土)

11:00-18:30(最終日17:00まで)

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ギャラリーなつか

東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル1F

電話03-6265-1889

http://gnatsuka.com/

 

藍画廊の金井聰和展を見る

 東京銀座の藍画廊で金井聰和展「庭しごと」が開かれている(12月3日まで)。金井は1966年川崎市生まれ、1990年多摩美術大学絵画科陶コース卒業。1990-92年同大学大学院陶コース研究生。1993-98年南インドチェンナイで制作。1996年インドマドラスで初個展、日本では1999年にガレリアセラミカで個展を開く。



 さて、作品を見てみると、陶と木の組み合わせだ。自然の木の枝が陶の口に差し込まれている。陶は焼くと収縮する。どうやってこんなにピッタリ合わせることが出来るのですか? 焼くと12%縮みます。もう勘で分かります、というような返事だった。すごい技術だと感心した。しかし、最も興味をそそられたのは、その陶と木の枝の造る形だった。どこか人体を思わせる気配もして、現代美術の造形としてはユーモアやゆとりが感じられる。

 過去の作品のファイルを見せてもらったら、住まいの近くの横浜の都筑民家園の外に作品を展示したりしていた。古墳時代の遺跡の方形墓を取り囲む柵に作品を並べたりしている。

 作家のユーモアあふれる心情や穏やかで暖かな性格が想像できる作品だった。

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金井聰和展―庭しごと―

2022年11月28日(月)―12月3日(土)

11:30-19:00(最終日18:00まで)

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藍画廊

東京都中央区銀座1-5-2 西勢ビル3階

電話03-3567-8777

http://igallery.sakura.ne.jp/

 

吉松隆『調性で読み解くクラシック』を読む

 吉松隆『調性で読み解くクラシック』(ヤマハミュージックメディア)を読む。「1冊でわかるポケット教養シリーズ」の1冊だ。ヤマハが出版もしているなんて知らなかった。現代音楽作曲家の吉松隆が初心者向けに音楽の調性について解説している。

 音楽の基本の3要素は「リズム」「メロディ」「ハーモニー」からなっている。調性には長調短調がある。長調は明るく、楽しく解放感がある。短調は暗さを感じさせる。ハ長調は#♭ともゼロなので楽譜はすっきりしていて初心者向け。ただやさしいぶん明快で影がなさ過ぎて、「脳天気」なイメージがなきにしもあらず、と。ト長調ヘ長調も#♭が少なくて譜面が読みやすく演奏しやすい。楽器が鳴りやすく音楽も「平明さ」を持った健康なものになる。それに続いて、#2つのニ長調、♭2つの変ロ長調あたりまでが比較的「やさしい楽譜」の調。古典派の時代まではよほどひねくれた作曲家でない限り、この辺りまでの調が普通に扱う限界だった。

 ただし、ピアノや管楽器では「♭」系の調、弦楽器は「#」系の調がもっとも演奏しやすい基本の調である。

 しかし、この後どんどん専門的になって難しくなっていく。さらに日本の音階についても触れられる。

 最後にそれぞれの調性の特徴と名曲が紹介される。

 

ハ長調

 #♭がないので、楽譜を見て弾く多くの楽器にとって初心者向けのもっともやさしい調。音階の基本音しか使わないため、その響きは明るく真っ白な感じがする。特にフィナーレのように「最後の解放感」には最高の調。オーケストラでは金管(特にトランペット)とティンパニを使った勇壮あるいは祝賀的な楽想にも向いている。ただし、運指という点からは(ピアノや管楽器ともども)必ずしも演奏しやすい調ではない。

 名曲は、

ベートーヴェン交響曲第5番〈運命〉第4楽章

モーツァルト ピアノ・ソナタ ハ長調K545第1楽章

 

ニ長調

 弦楽器系(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)はすべてこの「レ」の音を開放弦に持っているので、ストリングス系が鳴りやすい。ヴァイオリン協奏曲の名曲(ベートーヴェンチャイコフスキーブラームス)がこの調に集中しているのも面白い。(……)弦・管楽器とも鳴りやすい調だが、ピアノは響きがいまいちなのであまり使われない。

 名曲は、

ベートーヴェン交響曲第9番〈合唱付き〉第4楽章

ヨハン・シュトラウスラデツキー行進曲

 

嬰ハ短調

 主音(ド)が#付きで、属音(ソ)も下属音(ファ)も#付きのため、きわめて響きにくく、使用された曲も少ない。ただし、ピアノにおいては黒鍵を多用するため、技巧的な曲やユニークな楽想の曲に使われることがある。

 名曲は、

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番〈月光〉第1楽章

ショパン 幻想即興曲

 

 嬰ハ短調といえば、ショパン夜想曲第20番遺作もそうだった。