峰なゆか『AV女優ちゃん 1』を読む

 峰なゆか『AV女優ちゃん 1』(扶桑社)を読む。自身AV女優を経験した峰が、その体験を漫画に仕立てている。読後の印象は最悪だった。登場人物たちが主人公以外みな下種野郎たちなのだ。なるほど、それがAV業界なのだろう。素人の女の子たちをAV女優にして稼いでいる。

 主人公は最初お金がなく空腹でよろよろと新宿歌舞伎町を歩いていた貧乏学生だったとき、スカウトから声をかけられる。最初スカウトから、「デリヘルはどう?」と言われ、風俗はちょっとと断ると、「じゃあ、セクキャバは?」、それも風俗ですよね、「あ、逆にAVは!?」、それに対して、もういいですと断るが、1時間くらい時間くれるだけで1万円払うからと言われ、事務所まで付いて行く。

 そこはAVの制作会社で、出演すれば5万円のギャラが出るという。別室で下着だけの写真を撮っておこうと言われ。その結果彼女が巨乳だということが分かるとギャラは50万円にアップする。さらに以前の経歴を聞かれ、明石家さんまのテレビ番組『恋のから騒ぎ』に出ていたと言うと、ギャラが一挙に150万円に跳ね上がった。

 彼女は冷静に、顔が5万円、巨乳が45万円、肩書き100万円と分析する。元〇〇との肩書きがあると、それをキャッチコピーに企画もののAV作品が撮れるのだという。

 AV女優になると販売促進のためにサイン会が開かれる。いかにも不潔そうなオタクのファンたちがやってくる。身障者もたびたび見かける。その身障者の言葉。

 

ブスだねぇ~!!

ブスでもおっぱいがデカいだけでカネもらえていい仕事だねぇ!!

ねえねえ こんな仕事してるって親御さんは知ってるの?

せっかく育ててもらったのに人前でちんぽしゃぶって申し訳ないと思わないのぉ?

 

 それに対する彼女の脳内返答。

 

さらなる弱者はさらなる弱者だと認識した人間を見つけて叩く

自分より弱いと思える人間なんてめったにお目にかからないので

わざわざ会いに行ってまで

 

だから私は弱者が嫌いだ

私は強者になりたい

 

 さらにAV女優のスカウトの手口が紹介される。

 

土台が良くてメイクも服もちゃんとしているタイプ!! 

こういう女はダメだ!!

絶対にAVに出てくれない!!

ああやって自己プロデュースができる女は頭がマトモだから

カネが必要ならキャバとか愛人業で十分稼げる!!

AV女優になるなんていうリスクの高いことをわざわざする必要はないという判断できる知能があるんだよ!

 

 そして選ばれたのがこういうタイプ。

土台がいいのにメイクや服がおかしいタイプ!

自己プロデュースができていない!

つまり頭が悪い!!

頭が悪いからAVに出ちゃう可能性がかなり高い!!

 

 2巻目も3巻目も出ているようだけど、1巻読めばもういいや。

 

 

 

 

千駄木ガレージの井上活魂展を見る

 東京千駄木千駄木ガレージで井上活魂展が開かれている(11月28日まで)。井上は5月にもここで個展をしている。井上の書いたノートがあった。その文章を引く。

 

(前回の)書展の時、人間が逆さまになって字を書くので字を逆さまにして間人としてと言うタイトルを付けた。後で間人(もうと)と読め歴史的に身分のひくい乞食の様な意味がある事を知った。もらったり拾ったりして作っているタコベヤあがりのぼくは間人(もうと)として世の中を見続けたい。なんでも作品みんな作品。

 


 井上はもらったり拾ったりしたスクラップのような素材で作品を作っている。井上には美しいもの、整ったもの、完成されたものへの志向はない。これは蘇ったダダと言えるのではないか。開き直った井上の右顧左眄しない姿勢が潔い。

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井上活魂展

2022年11月22日(火)―11月28日(日)

10:00-18:00(最終日15:00まで)

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千駄木ガレージ

東京都文京区千駄木3-41-10

電話090-4613-6384

東京メトロ千代田線千駄木駅2番出口より徒歩4分、よみせ通り沿いの路面店

 

 

ガルリH(アッシュ)の小林絵里佳展を見る

 東京日本橋小舟町のガルリH(アッシュ)で小林絵里佳展「POOL SICKNESS」が開かれている(12月3日まで)。小林は1994年東京都生まれ、2017年に武蔵野美術大学造形学部彫刻科を卒業し、2019年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了している。ガルリHでは2019年以来4回目の個展となる。

 小林絵里佳の言葉。

 

ふと感じるプールサイドや更衣室に滴る水の肌触り。/人々の熱気と塩素の匂いが混ざり合い、纏わり付くような空気の中、その不快さに目が回る。/帰りのバスに乗る頃、私は吐き気を催していた。

私にとって、目地や隙間といった汚れが溜まっていく場所は、/特に触れる事を避けたい恐怖の境界線だ。/この隙間を、水質を衛生的に保つ塩素漂白剤で埋めていく事により、安心を得ようとした。/だが、プールではそれが人々と混ざり合い、/その肌触りや匂いで寧ろ安心は不快へと変質してしまう。/また、顆粒の集合体はトライポフォビア(※)の私にとっては恐怖を増長させる。/衛星と安心の存在が一転、不衛生と恐怖の象徴となってしまった。

 ※トライポフォビア=小さな穴や斑点などの集合体に対する恐怖症のこと(Wikipedia

 


 画廊の中央に大きな箱状の作品が展示されている。作品はタイルで覆われ、水滴が付いている。箱の下部はスノコが取り囲み、そこにも水滴が付いている。これらはプールをイメージしているという。水滴も本物ではない。タイルの目地には塩素系の接着剤?が使われ、そのため画廊中に微かな塩素臭が漂っている。まさにプールの臭いだ。

 タイルの造形と言えば、以前原美術館に設置されていたタイルの部屋を作ったジャン=ピエール・レイノーを思い出す。だが、レイノーアール・ブリュットないしはミニマル・アートの作家だったのに対して小林は真逆だ。ミニマル・アートは作品から意味を削ぎ落す。対して小林の作品は意味が充満している。

 プールの塩素の臭いを嫌悪するという動機からこの大きな立体作品を構想した小林絵里佳の非凡な発想が素晴らしい。平凡な発想は凡庸な作品しか生みださない。

 私は勉強不足で、トライポフォビアという概念を今回初めて知ったのだった。

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小林絵里佳展「POOL SICKNESS」

2022年11月20日(日)―12月3日(土)

12:00-19:00(最終日17:00まで)月曜休廊

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ガルリアッシュ galerie H

東京都中央区日本橋小舟町7-13東海日本橋ハイツ2F

電話03-3527-2545

https://galerie-h.jp

東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅A1・B6出口から徒歩5分

 

 

 

トキ・アートスペースの弓良麻由子展を見る

 東京外苑前のトキ・アートスペースで弓良麻由子展が開かれている(11月27日まで)。弓良は1984 年生まれ、日大芸術学部彫刻コースを卒業した後、2009年武蔵野美術大学大学院彫刻コースを修了している。その後ギャラリイKを始め、巷房などいくつかのギャラリーで何度も個展を開いている。トキ・アートスペースでは2020年に続いて2回目となる。


 重ね合わされた和紙の周囲を固められた厚紙が覆っている。なにか果実か種子の断面を見せられているみたいだ。弓良の作品は、そのように有機的なモチーフから成り立っている。植物を連想させて、どこか作家の豊かな内面を想像させる。女性的とか母性とか言ってしまってはジェンダーと批判されてしまっていけないのだろうか。だが、そのような概念に結びつく豊かさを感じるのも事実なのだ。

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弓良麻由子展

2022年11月22日(火)―11月27日(日)

12:00-19:00(最終日17:00まで)

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トキ・アートスペース

東京都渋谷区神宮前3-42-5 サイオンビル1F

電話03-3479-0332

http://tokiart.life.coocan.jp/

東京メトロ銀座線外苑前駅3番出口より徒歩約5分

 

ギャラリーQの奥山庸子展を見る

 東京銀座のギャラリーQで奥山庸子展が開かれている(11月26日まで)。奥山は1985年青森県生まれ、2008年に日本大学芸術学部美術学科絵画コース版画専攻を卒業している。ギャラリーQでは2019年に続いて2回目の個展となる。

 奥山が画廊で配布しているちらしから、

 

……漫画家は数百ものページを漫画で埋め尽くし1冊の本にしている。……私にとっては1コマ分描くのでも青息吐息で大変なのにと。……/だが、漫画本の1コマだけならばどうにかできそうだ。そうしてほぼ余白のマンガ本ができた。

 



 奥山は出来あがった本を手に持って歪ませて撮影し、その歪んだ状態を再び作品にしたりしている。架空の漫画の1コマを作品として制作しているその発想が面白かった。

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奥山庸子展

2022年11月21日(月)―11月26日(土)

11:00-19:00(最終日17:00まで)

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ギャラリーQ

東京都中央区銀座1-14-12 楠本第17ビル3F

電話03-3535-2524

http://www.galleryq.info