コバヤシ画廊の野沢二郎展を見る

 東京銀座のコバヤシ画廊で野沢二郎展「nebulae/朧」が開かれている(11月19日まで)。野沢は茨城県生まれ、1982年に筑波大学大学院を修了している。これまで「VOCA展'97」や同年の「バングラデシュ. アジア美術ビエンエーレ」に参加し、2012年はDIC川村記念美術館の企画展「抽象と形態」にも選ばれた。ここ銀座のコバヤシ画廊では2000年以降毎年個展を開いている。



 今回の個展の大作2点は割合穏やかな印象だが、それよりやや小さい作品3点はかなり激しい。穏やかな印象の大作は野沢の手の内のような作風だと思われるが、激しい作風の作品に惹かれた。

 最近ではこのような抽象作品を描く画家が少なくなってきたのではないか。毎年野沢の展開を楽しみにしてもいるのだ。

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野沢二郎展「nebulae/朧」

2022年11月14日(月)-11月19日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)

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コバヤシ画廊

東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1

電話03-3561-0515

http://www.gallerykobayashi.jp/

 

 

かわかみ画廊の川城夏未展を見る

 東京北青山のかわかみ画廊で川城夏未展が開かれている(11月19日まで)。川城は神奈川県生まれ、1992年女子美術大学芸術学部絵画科洋画専攻卒業、1995年東京藝術大学大学院美術研究科油画修士課程を修了している。2017年には損保ジャパン日本興亜美術館の「クインテットIII―5つ星の作家たち」に選ばれている。長くOギャラリーで発表してきた。数年前から赤い色面の中にわずかな色の濃淡で図形が描かれるようになってきた。

 川城の言葉、

 

存在はそこに在ったとしても無かったとしても/近くにあるのか遠くにあるのか/ただそれだけの事の気がする。

空を見上げている自分がここに居て夜空には星が静かに瞬いていた。

近くにあることと遠くにあること/をテーマに、内側からしか開けられない鍵を探しながら描いていました。

 



 川城は油彩と蜜蝋とパステルで描いている。ほとんど赤一色のなかに微妙な濃淡を施し、時に微かに植物などが描かれたりもする。とても繊細な絵画だ。川城の小品を玄関に飾れば上品な印象を与えるだろう。

 画廊は外苑前駅表参道駅の中間で、青山通りに面したマクドナルドがあるビルのちょっと奥まった1階にある。オリンピックという自転車屋の間の通路を直進した左側。

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川城夏未展

2022年11月5日(土)―11月19日(土)

13:00-19:00(最終日18:00まで)月曜休廊

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かわかみ画廊

東京都港区北青山3-3-7 第一青山ビル1F

電話03-6447-2328

http://galeriekawakami.com

 

 

白井聡『未完のレーニン』を読む

 白井聡『未完のレーニン』(講談社学術文庫)を読む。白井は、『永続敗戦論』、『長期腐敗政権』など、優れた書を書いている。本書はレーニンの思想について、『国家と革命』、『何をなすべきか』を中心に極めて詳細に読み解いている。原本は一ツ橋大学大学院の修士論文として書かれたものだという。レーニンに沿って革命の可能性が肯定的に綴られる。その精密な論理は見事なものだ。

 修士論文ということではそれ以上求めることではないだろうが、ソ連が崩壊した今、レーニンの目指した方向が後継者スターリンによって醜く歪められたとは言え、そのままレーニンを肯定することは大方の説得力を持たないのではないか。ソ連建国の根本的な問題を洗わなければならないのではないか。

 本題から少し外れるが、ユダヤ教キリスト教の関係について、フロイトウェーバーの言説を紹介している一節が興味深かった。

 

フロイトにとって、ユダヤ人とはキリスト教を受け入れなかった人びとの別名である。そして、キリスト教とは「息子たる者が、父なる神に取って代わってしまった」宗教であり、そこでは「まさしく、先史時代にすべての息子がそれぞれ熱望していたことが起こった」とされる。なぜなら、息子が父なる神の地位へと上昇したからであり、これはトーテミズムによる「欲動断念」が解除されたことを意味する。

(中略)

 ちなみに、ユダヤ教キリスト教との関係についての以上のようなフロイトの見方は、精神分析に特有の用語とフロイト特有の宗教発展観を取り払ってしまえば、別段奇を衒った特殊なものではない。ウェーバーはつぎのように言っている。

 「厳密に「一神教的」であるのは、煎じ詰めればユダヤ教イスラム教だけであり、このイスラム教ですら、のちに浸透した聖者崇拝によっていくぶん弱められている。キリスト教の三一論は、ヒンドゥ教や後期仏教や道教の三一論における神の三身論的把握とは違って、ひとり本質的には一神教的なはたらきを示しているが、他方ではカトリックのミサ儀礼や聖者崇拝は事実上多神教にきわめて近づいている。」

 したがって、フロイトが見出すユダヤ教の特質とは、宗教の起源に内在するトーテミズム的モメント、すなわち偶像崇拝と神強制(=魔術)へとつながるモメントを徹底的に排除しようとする傾向である、と言うことができる。

 

 白井聡の本はこれからも読んでゆきたい。

 

 

 

スプラウトキュレーションの山本麻世展を見る

 東京神楽坂のスプラウトキュレーションで山本麻世展「交わると、生まれます」が開かれている(11月13日まで)。山本は1980年東京都生まれ、2005年に多摩美術大学大学院美術研究科工芸専攻陶コース博士前期課程を修了している。ついで2008年にオランダアムステルダムの美術学校の陶芸学科を卒業し、2009年にはアムステルダムの別の美術学校のファインアート学科を中退している。その後オランダと韓国に滞在して制作し、内外のアートフェアに参加しているが、多く野外展示とのこと。2017年にギャラリー川船で初個展。

 ギャラリーが配布しているちらしから、

 

スプラウトキュレーションでは複数のグループ展に参加した後、初の個展となる本展では、オランダ留学時代に制作したセラミックの作品と、廃棄され錆びついた建設資材の金属片に、自作のフェルトを纏わせた新作のオブジェを出品します。製作時期も異なり、一見して関連性も無さそうに見えますが、じつはグリッドという共通項が二つのシリーズを繋いでいます。

 



 セラミックの作品が、特に変哲もないような造形だが、これが不思議に美しい。とても魅力的なのだ。もう一つの籠のようなものにフェルトを纏わせたオブジェについては、特に美しくもないし、よく分からなかった。

 やはりちらしから、

 

線の交差とは別のレイヤーにあるコンセプト「異素材の交差」もまた、何かの発生原理を示唆しています。錆びた鉄の廃材に、未知の菌が寄生して増殖している様にも見えるオブジェ。未知の菌は鉄を分解し、養分として活性化する性質なのか、鉄錆のオレンジ色は徐々に紫に変色し始め、やがて新たな生命体(キメラ)に変態するかのような、ドラマティックな展開を予感させます。はっとするパープルと錆から出たオレンジ。その滲みは、日没と陽の出に地球の際に出現する官能的なコントラストと相似でもあり、終わりと始まりの循環を象徴しています。(中略)

……山本麻世の表現は、生命が併せ持つ不気味さ/美しさに同時にアクセスしようとするものであり、今後より一層重要な意義を持つと考えられます。

 

 そうか、少し分った気がした。

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山本麻世展「交わると、生まれます」

2022年10月15日(土)―11月13日(日)

木―土曜は13:00―19:00、日曜は13:00-17:00(月-水曜休み)

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スプラウトキュレーション

東京都新宿区西五軒町5-1 ヱーワビル3階

電話03-3268-8700

https://sprout-curation.com/

 

 

始弘画廊の深沢軍治展を見る

 東京表参道の始弘画廊で深沢軍治展―内と外―が開かれている(11月19日まで)。深沢は1943年山梨県生まれ、1971年に東京芸術大学大学院美術研究科を修了している。深沢は様々な画廊で個展を開いているが、みゆき画廊やそれを受けついだうしお画廊、始弘画廊などでの発表が多い。



 今回は額を作品に取り入れている。作品を収める額に過剰に描き込んで、作品と額を一体化させている。額という四角い枠の中に四角い作品が複雑な形で収められていて、それも作品によっては複数個収められ、厚みを持ったレリーフ状の作品もあり、絵画という平面作品を多少とも壊そうとしているかのようだ。

 深沢は毎回の個展で同じことをしない。いつも見る者の期待を裏切ることを楽しんでいるのではないか。しかし、どんなに変わってもひと目で深沢と分かる作風は変わらない。

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深沢軍治展―内と外―

2022年11月7日(月)―11月19日(土)

11:00-18:00(最終日17:00まで)日曜休廊

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始弘画廊

東京都港区南青山5-7-23 始弘ビルB1

電話03-3400-0875

http://sicoh.web.fc2.com/index1.html

※地下鉄銀座線・千代田線・半蔵門線 表参道駅B3出口から徒歩3分