ギャルリー東京ユマニテの川島清展を見る

 東京京橋のギャルリー東京ユマニテで川島清展「水量XII」が開かれている(12月3日まで)。川島は1951年福島県生まれ、1986年東京藝術大学大学院美術研究科後期博士課程を満期退学している。1981年ときわ画廊で初個展、以来様々な画廊で個展を繰返し、いわき市立美術館と川越市立美術館で個展を開いている。

 ギャラリーのホームページから、

 

鉄、鉛、木、石膏など重厚な素材を用いて構成される川島の作品は、身体を通して紡ぎだされる言葉とともに構築された空間が提示されます。今回の個展は近年制作を続ける「水量シリーズ」の新作で、ヒマラヤ杉と鉄を組み合わせた作品となります。

 



 画廊の中央に大きな丸太の作品が設置されている。丸太は一度皮を剝ぎ再度それをかぶせて釘で留めている。木を削り鉄片を打ちこみ、少ない作為で「もの」ではなく、「作品」化している。その存在感が見る者を圧倒する。

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川島清展「水量XII」

2022年11月7日(月)―12月3日(土)

10:30-18:30(日曜祝日休廊)

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ギャルリー東京ユマニテ

東京都中央区京橋3-5-3 京栄ビル1F

電話03-3562-1305

https://g-tokyohumanite.com

 

 

ギャルリー東京ユマニテbisの清麻里展を見る

 東京京橋のギャルリー東京ユマニテbisで清麻里展-fractal-が開かれている(11月12日まで)。清は1969年大阪府生まれ、1993年に法政大学工学部建築学科を卒業している。2012年に陶芸家恵美加子に師事。2016年にギャルリ・プスで初個展。その後もプスで個展を重ね、2021年には巷房で個展をしている。


 清は陶の立体を作っている。釜の大きさの制約から、フラクタル(かたちの部分と全体が相似になっている幾何学の概念)にヒントを得た有機的な造形を制作した。

 ロート状あるいは乳房状のピースが11個組み合わされている。どこか浮遊感があったので尋ねると、中心に鉄パイプが立っていて、そこから吊られているという。面白い造形だと思った。

 会場にはこの作品1点だけで、なかなか潔い展示だった。でも小品とかマケットなどをギャラリーの外、芳名帳を置くあたりに並べても良かったんじゃないかな。

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清麻里展-fractal-

2022年11月7日(月)―11月12日(土)」

10:30-18:30(最終日17:00まで)

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ギャルリー東京ユマニテbis

東京都中央区京橋3-5-3 京栄ビルB1F

電話03-3562-1305

https://g-tokyohumanite.com

 

 

コバヤシ画廊の村山隆治展を見る

 東京銀座のコバヤシ画廊で村山隆治展「on the palette」が開かれている(11月12日まで)。村山は1954年茨城県生まれ、1980年に東京芸術大学大学院美術研究科を修了している。その後、ギャラリー山口やギャラリー手、ギャラリー21+葉などで個展を繰り返した後、2007年からは毎年コバヤシ画廊で個展を開いている。

 村山は特殊な方法で作品を作っている。ガラス絵の技法だが村山はガラスではなくアクリル板を使う。ガラス絵同様に裏面に描く。キャンバスに描くのとは違って、最初に置いた絵具が一番の表面になる。キャンバスに描いた場合は、最後に置いた絵具が表面になるのと正反対なのだ。さらに村山は指で描いている。



 この技法のため、画面は濡れているような印象で、指で描いているせいかどこか艶めかしい。以前、愛撫を思わせると書いたことがあった。

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村山隆治展「on the palette」

2022年11月7日(月)―11月12日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)

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コバヤシ画廊

東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1

電話03-3561-0515

http://www.gallerykobayashi.jp/

 

青山真治監督の映画『EUREKA ユリイカ』を見た



 東京国際映画祭青山真治監督の映画『EUREKA ユリイカ』を見た。『ユリイカ』は22年前2000年に上映された映画だが、今年青山監督が食道がんで亡くなったため、この映画祭で「監督特集〈追悼 青山真治〉」の1本として上映された。

 青山真治の『ユリイカ』について、映画評論家の蓮實重彦が『ドライブ・マイ・カー』より良いと発言していた。以下、蓮實の発言。

 

 実際、濱口監督の問題の作品(『ドライブ・マイ・カー』)については、あまり高い評価を差し控えている。とはいえ、それは、この作品の原作が、「結婚詐欺師的」と呼んで心から軽蔑している某作家の複数の短編であることとは一切無縁の、もっぱら映画的な不備によるものだ。妻との不意の別れをにわかには消化しきれずにいる俳優兼演出家の苦悩を描いていながら、問題の妻を演じる女優に対する演出がいかにも中途半端で、それにふさわしい映画的な存在感で彼女が画面を引きしめることができているとはとても思われなかったからだ。

 亡き妻の録音された声を聞きながら、主役の西島秀俊があれこれ思うという重要なシークエンスは素晴らしい。ここの場面にとどまらず、西島秀俊はみずからが途方もない演技者であることを、画面ごとに証明してみせている。だがそのとき、見ているものは、彼の妻だった女優の顔をありありと記憶に甦らすことができないのである。(中略)

 最後に繰り返しておくが、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』は決して悪い映画ではない。個人的には『寝ても覚めても』の方を好んでいるが、これだって決して悪い作品ではない。また『偶然と想像』(2021)も素晴らしかった。ただ、どれもこれも水準を遙かに超えている濱口竜介の作品といえども、現在の時点で、青山真治監督の傑作『EUREKA ユリイカ』(2001)の域にはまだ達していないと言わざるをえない。

 

 『ドライブ・マイ・カー』はアメリカのアカデミー国際長篇映画賞などを受賞し、興行的にもヒットした評判の良い映画だった。私も見て高く評価した。蓮實はその映画より青山真治の『ユリイカ』を評価するという。

 蓮實重彦は一流の映画評論家として圧倒的な地位を占めている。ただ、世界の映画評論家が非英語圏の映画のベストを投票して、ダントツ1位に選ばれたのが黒澤明監督の『七人の侍』だったが、蓮實はこれを全く認めないと言っていた。蓮實の評価眼を信じるべきか否か、自分で見て判断しようと思った。

 映画祭のパンフレットに『EUREKA ユリイカ』について短い紹介が載っている。

 

九州の田舎町で起きたバスジャック事件。生き残った運転手の沢井と直樹・梢の兄妹は、心に大きな傷を負う。2年後、沢井たちは、町でともに暮らし始めるが、その町でまたも殺人事件が発生するのだった。

 

 映画は217分、3時間37分の長尺。主演は沢井を演じる役所広司、妹役が当時14歳の宮崎あおい。始め役所に主役が務まるのか危ぶんだ。主役というには華がないと思ったからだ。

 映画は、沢井と兄妹、それに兄妹の従兄の4人が小型バスで旅をするロード・ムービーとして進行する。兄妹は引きこもりをしていたが、旅に出てもほとんど口を利かない。沢井と従兄の掛け合いで進行する。旅先でまたも殺人事件が発生する。

 ほとんど4人だけのドラマだが、十分緊張感があって興味が尽きない。3時間37分が長さを意識させない。役所広司がすばらしかった。

 ネタばれを防ぐために詳しいストーリーは省くが、蓮實重彦の判定に納得した。まぎれもなく傑作だった。青山真治の才能に脱帽した。優れた映画監督だった。映画祭で上映されたもう1本の青山真治監督の『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』も見れば良かった。

 

 

 

松坂屋上野店 美術画廊の平体文枝展を見る

 東京御徒町松坂屋上野店7階 美術画廊で平体文枝展「たゆたうとうとう」が開かれている(11月8日まで)。平体は石川県生まれ、1989年に筑波大学芸術専門学群美術専攻を卒業している。2002〜2003年に文化庁派遣芸術家在外研修員としてベルギーに滞在した。



 水面のような穏やかな画面に強い小さな筆触が置かれている。水面にたゆたう水鳥だろうか、あるいは低く飛ぶ蝶か舞い落ちる花びらだろうか。それらが静謐な画面のアクセントになっている。

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平体文枝展「たゆたうとうとう」

2022年11月2日(水)―11月8日(火)

10:00-19:00(最終日16:00まで)

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松坂屋上野店7階 美術画廊

東京都台東区上野3-29-5