ギャラリーなつかの芦川瑞季展を見る

 東京京橋のギャラリーなつかで芦川瑞季展が開かれている(8月7日まで)。本展は銀座・京橋を中心とする現代美術の画廊が共同主催する「画廊からの発言 新世代への視点2021」のひとつで、今回ギャラリーなつかは芦川を選んでいる。

芦川は1994年静岡県生まれ、2017年に武蔵野美術大学造形学部版画専攻を卒業し、現在同大学大学院博士後期課程作品制作研究領域在籍中。2018年にJINENギャラリーで初個展、その後も三菱一号館歴史資料室などで個展を行っている。

 芦川はリトグラフで日常的な風景を描いているように見えるが、よく見れば画面の中に異質なものが紛れ込んでいる。リアルな実景の中に2次元のマンガのコマが挿入されていたりする。ありえないものの合体はシュールレアリスムの世界だ。その不思議な世界がとても魅力的だ。

 

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芦川瑞季

2021年7月26日(月)―8月7日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)日曜休廊

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ギャラリーなつか

東京都中央区京橋3-4-2 フォーチューンビル1F

電話03-6265-1889

http://gnatsuka.com

 

 

「画廊からの発言 新世代への視点2021」が始まる

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 東京銀座・京橋を中心とする現代美術の画廊が共同主催する「画廊からの発言 新世代への視点2021」が明日から始まる。これは恒例の8軒の画廊が推薦する40歳以下の若手作家8人の個展だ。現代美術の代表的な貸画廊が選んだ作家たちだから見逃せない重要な企画で、7月26日から2週間開かれる(8月7日まで)。

 8つの画廊とそれぞれ取り上げている作家は次のとおり。

 

・ギャラリーなつか:芦川瑞季

http://gnatsuka.com/

 

・コバヤシ画廊:小野ハナ

http://www.gallerykobayashi.jp/

 

・ギャラリイK:和賀碧

http://galleryk.la.coocan.jp/

 

・ギャルリー東京ユマニテ:豊海健太

https://g-tokyohumanite.com/

 

・藍画廊:衣真一郎

http://igallery.sakura.ne.jp/

 

・ギャラリーQ:吉田花子

http://www.galleryq.info/

 

・ギャラリー58:クニト

http://www.gallery-58.com/

 

・ガルリSOL:加藤佑一

https://galerie-sol.com/

 

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「画廊からの発言−新世代への視点2021」

20201年7月26日(月)−8月7日(土)

11:30−19:00(最終日17:00)全画廊:日曜休廊

 

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牧野信一『ゼーロン・淡雪』を読む

 牧野信一『ゼーロン・淡雪』(岩波文庫)を読む。大江健三郎古井由吉が対談『文学の淵を渡る』(新潮文庫)で牧野を絶賛していたので、牧野の短篇小説「西瓜喰ふ人」を読んだらこれがよくできていた。それで本書を読んだ。

 牧野は明治29年に生まれて昭和11年自死している。本書は昭和に入ってからの短篇10篇とエッセイ3篇が収録されている。

「吊籠と月光と」(昭和5年)

「ゼーロン」(昭和6年)

酒盗人」(昭和7年)

「鬼の門」(昭和7年

泉岳寺附近」(昭和7年)

「天狗洞食客記」(昭和8年)

「夜見の巻」(昭和8年)

「繰舟で往く家」(昭和10年

「鬼涙村」(昭和9年)

「淡雪」(昭和10年

他にエッセイ3篇

「文学とは何ぞや」(昭和7年)

「気ちがい師匠」(昭和10年

「文学的自叙伝」(昭和10年

 「西瓜喰ふ人」は、小説を書いている瀧という男を「余」が観察しているとなっているが、二人は同一人物だったという、昭和初期に書かれたとは思えないほどのモダニズム文学であったが、本書に収録されている短篇作品はそれほど評価できるものはなかった。

 解説の堀切直人によれば、初期に私小説を書いていたが、昭和2年~7年ころは幻想小説を書き、晩年の作品では、「作者の自己喪失感、零落感はさらにいっそう深まり、行きつくところまで行った感がある」と書く。

 牧野信一はもういいやと思ったのだった。

 

 

 

 

東京都現代美術館の「MOTコレクション」を見る

 東京木場公園東京都現代美術館で「MOTコレクション」が開かれている(10月17日まで)。主として収蔵品を展示しているが、前回まで個展をしていたマーク・マンダースをこちらのスペースで再展示している。

 まず入口すぐのアルナルド・ポモドーロの「太陽のジャイロスコープ」という大きな作品。

 

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 Chim↑Pomの「May, 2020,Tokyo(大久保駅前)―青写真を描く―」。感光薬を塗ったカンヴァスを大型看板に設置し、緊急事態宣言中晒し続けた。いわば巨大な日光写真。

 

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 大岩オスカールオリンピアの神:ゼウス」。3枚を横に並べれば絵巻、縦に重ねれば肖像画に姿を変える、と。

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 大岩オスカール「ホワイトオス(カー) 森」

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  河原温「20 JUL. 1985 Today」。日付絵画。

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  平田実「ハイレッド・センター“首都圏清掃整理促進運動”」。ハイレッド・センターの昔の東京オリンピックに関連したパフォーマンスを撮影したのが平田実だった。

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  蜷川実花の写真作品「Light of」。蜷川実花は初め父の蜷川幸雄が演出した清水邦夫の芝居に出演していたが、俳優としては目立たなかった。次いで写真に転じて高く評価されたが、私は少しも評価できなかった。最近は映画の演出もしているが、蓮實重彦から「天性の映画監督でない人が撮っているというのが見え見えです」と言われている。

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 マーク・マンダース。これらがブロンズというのが驚きだ。

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 アンソニー・カロの彫刻。

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  宮島達男のデジタルカウンター作品。LEDの数字が際限なく明滅している。なぜか0はない。

 

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MOTコレクション」

2021年7月17日(土)―10月17日(日)

10:00-18:00(月曜休館)

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東京都現代美術館

東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)

ハローダイヤル050-5541-8600

https://www.mot-art-museum.jp/

 

東京都現代美術館の横尾忠則展を見る

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  東京木場の東京都現代美術館横尾忠則展が開かれている(10月17日まで)。今回600点以上の作品が並んでいるという。19年前の2002年に同じこの美術館で開かれた横尾忠則展は400点だったから、200点増えたことになる。その後2008年に世田谷区美術館でも個展が行われた。

 さらに都内のあちこちの画廊でも個展が開かれている。点数が多いのは売れているから量産しているのだろう。横尾はイラストレーターとして出発した。天井桟敷のポスターなどマスコミの露出も多かった。基本具象だから一般のファンも多いのだろう。ずっと横尾を評価してこなかったが、2008年の世田谷区美術館の個展では面白いと思ったのだった。

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 今回はちょっと辟易してしまった。絵は下手だし、ある意味下品だし、作品のテーマがマンネリでもある。横尾はライプチヒのネオ・ラオホと共通する傾向を示している。ネオ・ラオホは統一前の東ドイツ社会主義リアリズムに抗して作品を制作してきた。社会主義リアリズムの制約のなかでそれを踏み越える作品を工夫しなければならなかった。それが独特のシュールっぽい作品に結実している。横尾の作品も写実絵画を踏み越えている。一見ネオ・ラオホと共通すると思わせる点だ。

 しかし、ネオ・ラオホにあった社会主義リアリズムに飽き足らないで新しい表現を目指した動機にあたるものは横尾にとって何だろう。切実なそれが感じられなかった。横尾は絵画を量産している。だが、滝の絵でも、三叉路でも、テーマを得るために選んでいるのではないか。過去の名画からの引用が多いのも、本当に切実なテーマが横尾にないためではないのか。

 個人美術館も立ちあげている。今回、東京都現代美術館で600点の作品を並べて、入場者が多いことを予測して日時指定の前売券を購入することを美術館では推薦している。功成り遂げたと言い得るだろう。私がこれ以上何を言うことがあろう。

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横尾忠則

2021年7月17日(土)―10月17日(日)

10:00-18:00(月曜休館)

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東京都現代美術館

東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)

ハローダイヤル050-5541-8600

https://www.mot-art-museum.jp/