須藤靖『不自然な宇宙』を読む

 須藤靖『不自然な宇宙』(ブルーバックス)を読む。須藤は東京大学大学院物理学専攻教授とある。専門は宇宙物理学、特に宇宙線太陽系外惑星の理論的および観測的研究とある。私は東京大学出版会のPR誌『UP』に不定期に連載されている須藤のエッセイ「注文の多い雑文」のファンで、雑誌が届くと山口晃のマンガの次に須藤のエッセイを探して(載っていれば)読むのを楽しみにしている。
 須藤の単行本では以前『主役はダーク』(毎日新聞社)を読んだことがある。このブログにも「ちょっと怪しい本」として紹介している。ダークというのはダークマターダークエネルギーのことで、宇宙に偏在していて物質の何倍もある未知の存在だ。
 さて、『不自然な宇宙』は副題が「宇宙はひとつだけなのか?」とあり、マルチバースを紹介している。われわれが住むユニバースの外に複数のユニバースがあり、多数のユニバースを含めた世界をマルチバースという。われわれの住むユニバースの外の世界は当然認識することができない。須藤はマルチバースの存在を理論的に探っていく。
 須藤は「人間原理」を持ち出して、マルチバースの存在を主張する。しかし、そもそも「我々が観測できる宇宙の外にあるはずのマルチバースは原理的に観測不可能です」と書いている。やはりマルチバースのことを考えるのは虚しいことではないだろうか。

 

 

 

不自然な宇宙 宇宙はひとつだけなのか? (ブルーバックス)

不自然な宇宙 宇宙はひとつだけなのか? (ブルーバックス)

 

 

ギャラリーa-cubeとボヘミアンズギャラリーの桑原盛行展を見る

 東京渋谷のギャラリーa-cubeとa-cube+、そして神田神保町ボヘミアンズギャラリーで桑原盛行展が開かれている(4月12日まで)。桑原は1942年広島県生まれ、1967年に日本大学芸術学部を卒業している。はじめサトウギャラリーや南画廊で個展を開いていたが、のちにギャラリー上田やかねこ・あーとギャラリーで個展を開いたあと、2009年からはギャラリーa-cubeで個展を行っていて今回が4回目になる。

f:id:mmpolo:20190409224927j:plain

f:id:mmpolo:20190409224942j:plain

f:id:mmpolo:20190409224958j:plain

 桑原はコンパスを使って繰り返し円を重ね合わせていく。その膨大な作業の結果が手作業とは信じられないような美しい画面を作っている。
 ギャラリーa-cubeでは新作を、a-cube+では60年代の作品を、ボヘミアンズギャラリーでは70年代と80年代の作品を並べている。見ていて圧倒される手仕事の集積とその結果の美しさだ。

f:id:mmpolo:20190409225038j:plain

f:id:mmpolo:20190409225056j:plain

f:id:mmpolo:20190409225116j:plain

f:id:mmpolo:20190409225131j:plain

f:id:mmpolo:20190409225148j:plain

(部分図)

f:id:mmpolo:20190409225228j:plain

(部分図)

 ギャラリーで作成したカタログには詳しい制作過程が紹介されている。
     ・
桑原盛行展
2019年3月26日(火)-4月12日(金)
     ・
ギャラリーa-cube
東京都渋谷区松濤2-4-7 B1
電話03-5453-6333
ギャラリーa-cube+
東京都渋谷区松濤1-28-6 1F
電話03-5456-0331
http://www.a-cube.org
月曜日12:00-18:30、火~金曜日10:30-18:30、土曜日10:30-17:00、日・祝休み
     ・
ボヘミアンズギャラリー
東京都千代田区神田神保町1-25神保町会館3F
電話03-5577-6946
http://www.natsume-books.com/
12:00-18:00 年中無休

 

 

うしお画廊の井上敬一展を見る

  東京銀座のうしお画廊で井上敬一展が開かれている(4月13日まで)。井上は1947年、福岡県田川市生まれ。1980年に福岡教育大学美術研究科を修了している。井上は銀座のみゆき画廊で個展をしていたが、みゆき画廊が閉じてからはうしお画廊で個展を開いている。

f:id:mmpolo:20190408224503j:plain

f:id:mmpolo:20190408224520j:plain

f:id:mmpolo:20190408224534j:plain

f:id:mmpolo:20190408224551j:plain

f:id:mmpolo:20190408224611j:plain

 今回とくに裸婦が良かった。よく見れば裸婦の下に別の裸婦が描かれていた痕跡を残していたり、なかなか単純な描き方をしているわけではない。キュビスム的な画家だから感性で描いているのではなく、知的な計算で描いているようなのだが、見る者に美しさを感じさせる。
 地元福岡の大きな画廊でやった個展の写真をみせてもらったが、100号の裸婦を出していた。井上の裸婦は本当にすばらしい。

f:id:mmpolo:20190408224649j:plain

f:id:mmpolo:20190408224709j:plain

f:id:mmpolo:20190408224728j:plain

f:id:mmpolo:20190408224745j:plain

f:id:mmpolo:20190408224806j:plain

 小品の変な顔の頭部を描いたものもとても魅力的だ。
     ・
井上敬一展
2019年4月8日(月)~4月13日(土)
11:30-19:30(最終日17:00まで)
     ・
うしお画廊
東京都中央区銀座7-11-6 イソノビル3F
電話03-3571-1771
http://www.ushiogaro.com

 

 

新発見の長谷川利行の作品が現れた

f:id:mmpolo:20190407230524j:plain

 長谷川利行の作品が現れた。4号くらいの厚紙に油彩で描かれた風景画だ。墨田区にあったお堂を描いたものらしい。サインは「T. HASEKAWA 32」となっている。1932年に描かれたもののようだ。昭和7年、利行41歳のときの作になる。厚紙の裏にはフランス語が印刷されている。
 私は近所の画廊のオーナーから見せられた。昨年知人から譲ってもらったものだという。その人のおじいさんが持っていて、長く押し入れにしまわれていたという。おそらく新発見じゃないかと思われる。サインも間違いないようだし、出所も間違いないようだ。

 

 

宇フォーラム美術館の菅野美榮・桝本純子展を見る

 東京国立市の宇フォーラム美術館で菅野美榮・桝本純子展が開かれている(4月14日まで)。
 菅野は群馬県出身、1968年共立女子短期大学を卒業したのち、1971年日本デザインスクールを卒業している。1990年、銀座のギャラリー・オカベで初個展。その後、ギャラリートモスやギャラリーテムズ、ギャラリー椿、K'sギャラリー、ガルリSOL等々で多くの個展をしてきた。近年はタンポポの綿毛を無数に使ったインスタレーションなどを発表している。

f:id:mmpolo:20190406154425j:plain

f:id:mmpolo:20190406154446j:plain

f:id:mmpolo:20190406154507j:plain

f:id:mmpolo:20190406154532j:plain

 奥のスペースの中央にテーブルが置かれ、その上に無数のタンポポの綿毛の球が並べられている。球のまま崩れないように展示するのが菅野のノウハウだ。その周囲を蜜蝋が塗られてやや太い糸がこれまた無数に垂れ下がって、雨のようにも見えるし、またあたかも豪奢なヨーロッパの貴族のベッドのようだ(貴族のベッドを見たことはないけど)。

f:id:mmpolo:20190406154602j:plain

f:id:mmpolo:20190406154620j:plain

f:id:mmpolo:20190406154639j:plain

 その向こう、奥に小品が置かれている。ガラスで作ったという開かれた本と小舟だ。どちらにもタンポポの綿毛が植え込まれている。

f:id:mmpolo:20190406154718j:plain

f:id:mmpolo:20190406154736j:plain

f:id:mmpolo:20190406154754j:plain

 手前のスペースに桝本の作品が展示されている。壁に大きな紐というかロープで作った造形と、床には鉄で作った立体作品が置かれている。美術館のホームページには桝本の作品について、「桝本は森に出かけ、インスピレーションを得、表現手段を鉄とロープに求め、鉄工所に通い鉄を打ち鉄の花を製作しています」と書かれている。
 宇フォーラム美術館はJR中央線国立駅南口から徒歩20分。大学通りは桜並木が満開だった。南口からは斜め左手に伸びている旭通りを直進、二手に分かれている三叉路を右の三小通りに進む。直進すると左手にファミリーマートがあり、その次の交差点を左折して間もなく。駅前バス停6番乗り場からバスに乗り「第三小学校」のバス停で下車して徒歩5分という方法もある。
     ・
菅野美榮・桝本純子展
2019年3月28日(木)-4月14日(日)
13:00-17:30(月・火・水曜休館)
     ・
宇フォーラム美術館
国立市東4-21-10
電話042-580-1557
http://kunstverein.jp/
入場料500円(中学生以下無料)