とんぼの本『「戦争」が生んだ絵、奪った絵』を読む

 新潮社の「とんぼの本」のシリーズ最新刊がこの『「戦争」が生んだ絵、奪った絵』だ。著者名として、野見山暁治、橋秀文、窪島誠一郎の名前が並んでいる。実際は野見山が香月泰男について22ページ書き、橋が浜田知明について11ページ書いている。ついで編集部の名前で15ページにわたって、高山良策、山下菊二、靉光のことが紹介される。ここまでが第一部「戦争」が生んだ絵、と題された章。
 第二部は「戦争」が奪った絵、として第一章が「戦没画学生と遺作を守った遺族たち」、第二章が「戦没画学生列伝」となっている。この第二部で戦没画学生がその作品と共に30人紹介されている。こちらには75ページが充てられていて、すべて編集部が書いたことになっている。
 最後の第三部が窪島で、「無言館」の13年、眠れる「絵の骨」のことと題されている。これが15ページ。
 表紙に野見山・橋・窪島の3人の名前が表記されているが、3人合わせて1/3の分量で、残りは編集部となる。まあ編集部というのは外部のフリーライターだろうけど。
 ぐちゃぐちゃ言っているけれど、良い本だ。核として窪島が作った上田の無言館がある。無言館については、窪島始め野見山も何度も書いている。そのテーマを扱ってこんな風に仕立てたのは新潮社の編集部の手柄だろう。そんなことが新潮社に可能なのは、おそらく「芸術新潮」の編集ノウハウが蓄積されているからだ。
 大きな不満はなかったものの、署名原稿と編集部とされた原稿の質の違いが大きかった。野見山の香月泰男小論は良かったし、窪島の無言館について語る何度目かのエッセイも良かった。
 戦没画学生の美術館「無言館」は窪島の作品だ。すばらしい仕事をしたと思う。ここも多くの人たちに行って見てほしい。戦没画学生の絵はここで見てこそ意義があるのだから。


「戦争」が生んだ絵、奪った絵 (とんぼの本)

「戦争」が生んだ絵、奪った絵 (とんぼの本)