先崎学「小博打のススメ」はすごい

小博打のススメ (新潮新書)
 私は競馬もパチンコも麻雀もしない。若いころ勤めていた職場では、博打が流行っていた。ちんちろりん、丁半、おいちょかぶ、この内おいちょかぶだけやった。少しだけだが。
 プロ棋士先崎学八段は博打が好きらしく、「小博打のススメ」(新潮新書)という本を書いていてこれが滅法面白い。いろいろな博打を紹介して、そのやり方を解説している。警察に踏み込まれたときの対処法まで書いてある。
 内容は、麻雀、それに3人でやる麻雀サンマ。サイコロを使う博打は、ちんちろりん、たぬき、きつね、ちょぼいち。トランプを使うポーカー、オール。花札を使うおいちょかぶ。博打の最高傑作という手本引き、この手本引きが現在裏社会ですら行われなくなったのは、裏社会中の裏社会、つまり「その筋のヒト」御用達のゲームだったからだという。カジノではブラックジャック、ルーレット、大小、バカラ。最後が将棋。これだけの博打=ゲームについて詳しく遊び方を解説しているのだ。棋士って何て遊び人なのだろう!
 手本引きの解説をしている中で、警察に踏み込まれたときの対処法を紹介している。

 健全に楽しむということは、安心して楽しめるということである。そのために、ふたつ守っていただきたいことがある。ひとつは、知らない人間はできるだけ仲間に入れないこと。なんだかんだいっても、現実に危い博打であることに変りはないのだ。入れるとしたら、メンバーの中の信用できる人間の紹介があった時のみにすること。ふたつめは、部屋にノックがあったら、必ずドア越しに顔を確認すること。ありえないことだが、万が一警察だったら、変にバタバタせず、あらかじめ用意した部屋の小さなかごに、場に出ている金を1円玉まで全部入れること。こうすれば警察は手も足も出ません。
 残念なことだが、個人の家でやっていて、警察が来るというのは、メンバーのひとりが「売った」ということである。そういうような雰囲気を作らないことが望ましいが、いざという時の対処法は知っているにこしたことはない。とにかく表にある現金はひとまとめにして、「これはゲームの迫力を出すためのかざりです」といえばいいのである。もうすこしいえば、「そうはいっても大人なんだから少しぐらい賭けていただろう」というようなことをいわれた時に「いいえ」と無駄なく一言でいうのが大事である。

 そう言えば、浮気の現場に踏み込まれたときは、まだ入れてないとか、指しか入れてないと言うのが有効だと聞いた。
 外資系企業が得意先の部下から、「購買担当の人がやたら詳しくて、あんたの会社の見積もりは普通よりXX%高いよと言われました。実はXX%掛けているのですと言ってしまっていいですか」と聞かれた。駄目だと答えた。肯定すれば事実になってしまう。肯定しなければ、曖昧のまま宙に浮いている。


 先崎学は12歳で麻雀を覚えたという。13歳で雀荘にデビューし、それからはお決りの麻雀ザルで連日連夜麻雀を打った。気っ風のよいオバチャンの店で「ビール」というと、「アンタ、高校生でしょ、駄目よ」というオバチャンに私は正直にいった。「いや、実は中学生なんです」。オバチャンはポカーンとして、黙って私にビールをついだ。「もう知らない。アンタ勝手にやりなさいよ」
 この人本当に筆が立つ。棋士にしておくのがもったいない。