ヒノギャラリーの長谷川さち展を見る

 東京八丁堀のヒノギャラリーで長谷川さち展「Garden」が開かれている(4月13日まで)。画廊のホームページによれば、長谷川さちは15年以上石を主材に制作を続ける彫刻家とのこと。ヒノギャラリーでの個展は今回7年ぶりになる。黒御影石を使っているが、ガラスと組み合わせた作品も展示している。

「全てを含む私、または私を含むすべて」

 奥の部屋に展示されている大きな石の彫刻にガラスの輪が組み合わさっている作品が面白かった。どこか大きな老いた大きな動物を連想させる。

 ガラスの作品も展示されていたが、総じて石の作品が面白かった。

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長谷川さち展「Garden」

2024年3月25日(月)―4月13日(土)

11:00-18:00(土曜日17:00まで)日曜・祝日休廊

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ヒノギャラリー

東京都中央区入船2-4-3 マスダビル1階

電話03-3537-1151

http://www.hinogallery.com

JR線・地下鉄日比谷線「八丁堀」駅A2番出口より徒歩5分

地下鉄有楽町線新富町」駅7番出口より徒歩5分

 

CON_ギャラリーの松田将英展を見る

 東京日本橋馬喰町のCON_ギャラリーで松田将英展「Adaptation」が開かれていた(4月7日まで)。松田将英は1986年生まれ、2010年から匿名で活動を開始。2016年に渡独し実名での活動を開始した。主な展覧会に金沢21世紀美術館、ドバイでの展示などがある。

 これは東京都現代美術館に常設されているジャッドの作品に対するパロディ/オマージュか。空洞の箱の中にミネラルウォーターのペットボトルが入っている。

 




 壁面に設置されているのはキャンベルスープ缶ならぬ非常食のカンパンの缶詰。これは三立製菓の品物らしい。ウォーホルへのパロディ/オマージュか。

 

 

 表面がタイルで仕上げられたような作品はジャン=ピエール・レイノーを模したのかと思ったが、ギャラリーのスタッフの話では、トイレットペーパーの塔とともにソル・ルウィットを模しているという。ミニマルの作家だった。

 ちょっと残念だったのが、タイルの表面と見えていたものが、タイルの絵か写真を貼ったもので、それが剝がれかけていた。

 しかし、極めて知的な作家で、いずれも面白かった。

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松田将英展「Adaptation」

2024年3月23日(土)―4月7日(日)

14:00-19:00(月曜・火曜・水曜・祝日休廊)

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CON_ギャラリー

東京都中央区日本橋馬喰町2-2-14 まるかビル4F

https://www.contokyo.com/

 

 

ギャラリーなつかのこづま美千子展を見る

 東京京橋のギャラリーなつかでこづま美千子展≪―景色の中に潜むもの― 狭山⇄スロベニア≫が開かれている(4月13日まで)。こづまは東京生まれ。1987年に多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業。1984年から個展やグループ展で発表を続けている。1988年ホルベインスカラシップ奨学生、2004年文化庁新進芸術家国内研修員。今年レジデンスプログラムでスロベニアに滞在し制作してきたという。その時の作品はスロベニアで展示されているということだが、現地での取材を元に制作した紙の作品も展示している。


 大作はM100号が3点、それを縦サイズで制作している。こづまは色彩に優れた画家で、また「複数の時間や空間を一枚の絵のなかに表現しよう」と試みている。

 紙の作品はいずれも小品だが、こづまの優れた色彩がよく分かる気持ちの良いものだった。自分の住んでいる埼玉の風景とスロベニアの風景を重ねているという。

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こづま美千子展≪―景色の中に潜むもの― 狭山⇄スロベニア

2024年4月8日(月)―4月13日(土)

11:00-18:30(最終日17:00まで)

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ギャラリーなつか

東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル1F

電話03-6265-1889

http://gnatsuka.com/

 

本川達雄『ウマは走る ヒトはコケる』を読む

 本川達雄『ウマは走る ヒトはコケる』(中公新書)を読む。副題が「歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学」。本川達雄といえば、『ゾウの時間 ネズミの時間』(中公新書)がとても面白かったので期待して読んだ。本川が「おわりに」で書いている。

 本書では、われわれ自身が毎日やっている歩く・走るや、雀が飛ぶ、金魚が泳ぐなど、これも毎日目にしている動物たちの移動運動がテーマである。また、そのような運動を上手に行える体のつくりについてもかなり詳しく説明した。

 

 哺乳類から鳥類、魚、昆虫などを例にとって、移動運動をきわめて詳しく解説している。それらの運動を可能にしている筋肉や骨の構造や機能についても大変に詳しい。

 しかし、本書は解剖学を学ぶ学生たちが主な読者ではないかと思えるようなほとんど専門的な内容なのだ。もちろん私は動物の組織についてほとんど興味がない。興味がない分野の本を読むのは時間がかかり、こんな厚くもない新書を読み終わるのに1週間もかかってしまった。『ゾウの時間 ネズミの時間』の面白さを期待したら裏切られるだけだろう。

 それでも渡り鳥が長距離を渡ることについての項は面白かった。オオソリハシシギはアラスカで繁殖し、そこから赤道を越えて太平洋を南下して越冬地のオーストラリア東部やニュージーランドまでわたる。17,000kmを8日間ほどで行く。

 キョクアジサシは北極圏で春と夏を過ごし秋になったら南極圏に渡る。渡る距離は片道35,000kmで、一部の鳥では往復の総移動距離が8万kmにも達する。

 ハシボソミズナギドリは10月から3月に南極でオキアミを食べて栄養をつけ、タスマニアで子育てをし、その後北へと渡って4月から9月はオホーツク海ベーリング海で別種のオキアミやイカを食べて過ごす。

 また鶏肉の「ささみ」が翼を打ち上げる小胸筋で、翼を羽ばたかせる大胸筋が「むねにく」だと初めて知った。

 

 

 

BUGの千賀健史個展を見る

 東京丸の内のアートセンターBUGで千賀健史個展「まず、自分でやってみる。」が開かれている(4月14日まで)。アートセンターBUGは以前有楽町にあったガーディアン・ガーデンを継承するアートスペースだ。ガーディアン・ガーデンはリクルートが管理するギャラリーだった。それを閉鎖して新しく東京駅八重洲南口に建つグラントウキョウサウスタワーの1階に移転してアートセンターBUGとしてオープンした。

 JR東京駅八重洲南口から徒歩3分という極めて便利な場所、アートスペースBUGはカフェが併設されていておしゃれな空間になっている。ギャラリー空間もそこそこ広く天井も高い。ただ必要以上とも思える天井高が必ずしもギャラリーとして使いやすいようには思えないし、解放された空間が作品に対峙する場所としてはいささか落ち着かない印象を受けた。


 今回個展が行なわれている千賀健史はガーディアン・ガーデンで第16回写真「1_WALL」のグランプリを受賞した写真家。1982年滋賀県生まれで、2008年に大阪大学基礎工学部を卒業している。キャノン写真新世紀優秀賞なども受賞している。

 BUGのホームページから、

本展では、2019年から約3年間にわたり千賀がリサーチしてきた特殊詐欺を取り巻く社会構造や個々人をテーマとし、写真、映像を含むインスタレーション作品を展示します。展覧会名と同名である「まず、自分でやってみる。」の作品シリーズは、千賀が詐欺犯や被害者などに扮して撮影したポートレートを水溶紙に印刷し、そこに水を吹きかけ、紙を溶かして作られています。この水溶紙は、実際に詐欺グループが証拠隠滅のためによく用いるもので、ほとんど原形を留めない紙からは顔貌が判別できず、そこに居た人/消えた人を想像することしかできないでしょう。特殊詐欺の被害額が最大となった2014年から、千賀が初めてこのテーマで作品を発表した2021年まで被害は減少傾向にありましたが、コロナ禍を経て2022年には8年ぶりに増加しました。本展では、被害が増加した背景にある社会や時代の変遷から影響を受けた個々の生活の変化に焦点を当てます。

 

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千賀健史個展「まず、自分でやってみる。」

2024年3月6日(水)―4月14日(日)

11:00-19:00(火曜休館)

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アートセンターBUG

東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー1F

https://bug.art/