TAKU SOMETANI ギャラリー移転

 TAKU SOMETANI ギャラリーはこれまで台東区浅草橋にあったが、10月から渋谷区神宮前に移転して、こちらで新しく営業を始めた。今までと異なり路面店で入りやすいギャラリーだ。大きな彫刻作品も搬入しやすく、第1回展には早速大きな木彫作品が展示されている。

 移転記念展は丸山太郎個展で始めている(10月24日まで)。丸山は、1991年神奈川県生まれ、2018年東京芸術大学大学院彫刻専攻修了、2021年同大学院博士後期課程を修了している。TAKU SOMETANI ギャラリーでは2度目の個展となる。

 ギャラリーのホームページから、

 

丸山は、ダイナミックな木彫作品、木彫とレディメイドの組み合わせ、セラミック作品など、多様な技法を駆使し、現代の雑多な日常から得られるイメージを分解、再構築し、 ”彫刻” として造形化された作品は、私たちが「そういうものだ」と定着している既成概念に大きく揺さぶりをかけ、鑑賞者を圧倒します。

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 近くにはMAHO KUBOTAギャラリーやギャラリーNANZUKA、トキ・アートスペース、ギャラリーJyなどがある。ギャラリー回りをするには便利だと思う。

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丸山太郎展

2021年10月2日(土)―10月24日(日)

13:00-19:00、月曜・火曜休廊

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TAKU SOMETANI ギャラリー

東京都渋谷区神宮前2-10-1 サンデシカビル1階

電話050-5532-6058

https://takusometani.com

 

 

吉行淳之介『やわらかい話2』を読む

 吉行淳之介『やわらかい話2』(講談社文芸文庫)を読む。副題が「丸谷才一 編、吉行淳之介対談集」。やわらかい話というタイトルだけあって、艶めいた対談を集めている。

 

 東郷青児は画家。現在のSOMPO美術館は(旧館名:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)東郷青児を記念して創られた。

 

吉行淳之介  17、8年前に小説集を出されましたね。『半未亡人』。あのなかの女の競売(セリ)の話はフィクションですか。

東郷青児  ほとんどフィクションだけど、ああいった不道徳な反倫理的な生活を、ぼくはフランスでうんと見ているんだ。いまの人にはふつうのことかもしれないけれど、当時の日本人の感覚では、相当強い刺激だった。

吉行  しかし、あれはきれいだった。ああいう情景は、見るだけで、参加されなかったのですか。

東郷  貧乏学生だったから、ヨダレたらして見てるだけ。でも、そういう生活を「悪」だとは思わなかった。そういう生活にあこがれていた。たとえば、日本でなら、女の子が結婚すると、まあ貞操堅固になるでしょう。ところが、当時のフランスの女は「もうじき結婚するから、そしたらいうことをきく。いまは、結婚前だからできない」……日本と反対なんだ。

吉行  日本だと「もうじきお嫁に行くから、その前に……」という考えですね。どういうことなんだろう。

東郷  人妻が浮気をするってことは、フランスの社会では一種の常識みたいになっていて、しない女のほうが病気みたいに思われるんじゃないかな(笑)。男のほうも割り切っていて、たとえ自分の女房でも独占することはできないという諦観をもっている。

 

 藤原義江はオペラ歌手。藤原歌劇団を結成した。

 

藤原義江  (……)ぼくの伴奏者でマキシム・シャピロというロシア人がいて、博多に連れていったら、15、6になる半玉に惚れちゃって「あの女とできなきゃ、伴奏弾かない」っていうんだ。

吉行  すごいのがいるね。勇将のもとに弱卒なし、だ(笑)。

藤原  そしたら、あき子――女房(藤原あき)が「あなた、人道問題だ」っていう。シャピロはでかいんで有名なんだ。「それを15、6のかわいい娘と……。人道問題だ。やめなさい」って。女将さんに聞いたら「本人に聞いてみます」。ところが当人の半玉は「うち、あの人が好きや」っていうんだね。翌朝、女房が心配するから、もう気が気じゃない。行ってみて「どうだった」といったら「ワンダフルだ。朝になったら、彼女がこれでおしまいかって聞いた」(笑)。

 

 金子光晴は詩人。戦前に海外を放浪している。

 

金子光晴  あのね、夫婦の生活というのは、最初は時間がゆっくりたつでしょ。

吉行  それ、どういう意味ですか。

金子  普通の夫婦はね、3年目ぐらいでしょう、なめるのは。しかし、ぼくはもうそんな悠長なことしてる時間はないから、乗っけちゃおうと思って、初見から。

吉行  なるほど、しかし、どこに乗っけるんですか。

金子  顔の上に乗せちゃうんだ、あれを。それから始める。これは逆コースでしょう。

吉行  なるほど。

金子  生娘なんぞだと、びっくりするようですがね、あの感じも悪くないです。

 

 末尾に「解説対談」として、編者の丸谷才一渡辺淳一が「吉行さんのもて方と恋愛小説」と題して語り合っている。

 丸谷が宇野千代小林秀雄のことを紹介している。

 

丸谷  すごいのよ。瀬戸内寂聴さんから聞いた話だけども、瀬戸内さんが宇野さんの色ざんげをいろいろ聞いたんですって。それで、具体的に名前がいっぱい出てくる。ついに出てこない名前があったんで、瀬戸内さんが「小林秀雄とはどうだったんですか」って聞いたんだって。そしたら宇野さんが、恥じらって「わからない」と言う。

渡辺  それは、あったってことですね。

丸谷  「わからないってどういうこと?」、瀬戸内さんが重ねて聞いたら、「何しろ雑魚寝だったから」って言ったんだって。そういうことをやっているわけですよ(笑)。だから、論理も非論理もあったもんじゃないんだな、そうなると。

 

 渡辺は、吉行が銀座でもてたって言われているけれど、ホステスたちと肉体関係があったのか気にしている。やっぱ下品な渡辺淳一だ。そんな人のことなんかどうでもいいじゃん。

 

 

ギャラリーなつかの安田昴史個展を見る

 東京京橋のギャラリーなつかで安田昴史個展が開かれている(10月9日まで)。本展は「たまびやき」の大学院生による選抜展。「たまびやき」は、毎年ギャラリーなつかで開かれる多摩美術大学および大学院工芸専攻の陶/選抜作品展だ。

 安田は2020年多摩美術大学美術学部工芸学科陶プログラムを卒業し、現在同大学大学院陶研究領域博士前期課程2年に在籍している。

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 安田は陶で複雑なオブジェを作っている。2次元の非ユークリッドの馬の鞍型空間のような造形だ。とても複雑な空間を作っている。あらかじめドローイングを描くのか訊くと、描いているというが持ってきてなかったので見られなかった。どんなドローイングなのだろう。

 1枚の陶板を歪ませて、くねるような空間を作り、表面に釉薬をかけてまたそれを削り、面白いマチエールを生み出している。

 安田の言葉、「物質がある状態から別の状態に移り変わってゆく境界、そこに蠢く力に惹かれている。つくる中で無機物へ宿りゆく生命体を演出し、楽しんでいる」。

 なるほど、古生代から中生代にかけて繁栄したアンモナイトが形を複雑化していった進化の例を思い出した。

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「たまびやき」安田昴史個展

2021年10月4日(月)―10月9日(土)

11:00―18:30(最終日は17:00まで)

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ギャラリーなつか

東京都中央区京橋3-4-2 フォーチューンビル1F

電話03-6265-1889

http://gnatsuka.com

 

 

コバヤシ画廊の渋谷和良展を見る

 東京銀座のコバヤシ画廊で渋谷和良展が開かれている(10月9日まで)。渋谷は1958年東京生まれ、1981年に東京藝術大学美術学部油画科を卒業し、1983年に同大学大学院美術研究科版画専攻修士課程を修了している。2002年から1年間、文化庁在外派遣研修員としてドイツベルリン芸術大学およびマールブルグ大学にて研修。

 1996年に柳沢画廊で初個展、その後ドイツや日本各地の画廊で個展を行い、2019年からは毎年コバヤシ画廊で個展を開いている。

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 今回画廊の正面の壁に大きな正方形の作品が展示されている。S130号くらいの大きさか。画廊の入口を入らないので、木枠から外して持ち込み、画廊で木枠に張り直したという。この作品がとても良かった。右手の壁には横長の大きな作品が展示されている。少し野見山暁治を連想させて、これも良かった。

 渋谷は三浦半島の海に面した地にアトリエを構えているという。どちらの作品も海のイメージが描かれているように見える。抽象的作品でありながら、海のイメージから作品を成立させている。気持ちの良い個展だった。

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渋谷和良展

2021年10月4日(月)―10月9日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)

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コバヤシ画廊

東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1

電話03-3561-0515

http://www.gallerykobayashi.jp/

 

 

椿玲奈『カイメン』を読む

 椿玲奈『カイメン』(岩波科学ライブラリー)を読む。カイメンは英語でスポンジ、食器洗いの人工のスポンジの元となった海綿動物だ。動物なんである。しかし、カイメンには脳も神経も消化管や筋肉すらない。

 カイメンは水中に漂う植物プランクトンなどをこし取って食べる。これを「ろ過食」という。カイメンのスカスカ構造は身体中に張り巡らされた水路網だという。カイメンは海水を取込み、そのなかの酸素を利用して呼吸すると同時に小さな有機物をこし取って食べている。

 カイメンは種類によって1ミリ以下の小さなものから、3メートルを超える大きなものまである。カイメンの寿命は1万年を超える世界1長寿の種類も見つかっている。

 カイメンはサンゴ礁のようなカイメン礁を作る。大きいものは高さ20メートル、面積700平方キロメートル以上という、東京23区がすっぽり入ってしまうほどの巨大な構築物だった。しかし、それも人間の漁業活動によってすでに半分が破壊されてしまっている。カイメン礁は1メートル育つのに220年かかると言うのに。

 カイメンのほとんど誰も知らない不思議な生態が書かれていてとても興味深かった。固着生活をする動物の有性生殖について、フジツボが体長の8倍もあるペニスを伸ばして近くの個体と交尾するというのも驚いた。人間でいえば12メートル以上の長さになる。そんなのを近くの個体に伸ばすというのもハレンチじゃないだろうか。