ガルリSOLの平野由果展を見る

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  東京銀座のガルリSOLで平野由果展が開かれている(9月26日まで)。平野は1992年に日大芸術学部美術学科版画科を卒業し、1992-1994年に日大芸術学部研究科に在籍していた。1993年にギャラリー21+葉アネックスで初個展、翌年九美洞ギャラリーで個展、その2年後に再びギャラリー21+葉アネックスで個展を開いて、今回が24年ぶりの個展だった。子育てに忙しくこんなに時間が空いてしまった。

 以前の3回の個展を見ているはずですと言ったが、あまり記憶がなかった。すると以前は版画を制作していて、旧姓が熊倉だったと言う。それなら憶えている。熊倉由果は強く印象に残っている。もう24年も経ったのか! 今回は水彩で植物を描いている。繊細ななかにも力強く上品な作品だ。

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 会場に二人の若者がいて、知り合いが個展を見に来ているのかと思ったら、すでに社会に出ている息子と娘だとのこと。なるほど24年というのは十分に長い時間なのだ。

 今後は再び制作を続けていくというから、熊倉いや平野の作品がまた見られることになる。探せば24年前の個展のDMが保管してあるはずだ。

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平野由果展

2020年9月21日(月)-9月26日(土)

11:00-19:00(最終日17:00まで)

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ガルリSOL

東京都中央区銀座1-5-2 西勢ビル6F

電話03-6228-6050

http://www005.upp.so-net.ne.jp/SOL/

 

 

 

丸谷才一『七十句』を読む、また検印のこと

 丸谷才一『七十句』(立風書房)を読む。「あとがき」に、「このたび七十歳を迎へるに当り、齢の数だけの句を拾つて知友に配らうと思ひ立つた」とある。1995年丸谷が70歳になったのを記念して70句だけの句集を作った。そんな体裁だから「知友に配る」つもりだったのだろうが、出版社が売りたいと言って私家版じゃない本書ができたのではないか。1ページに1句が置かれている。きわめて贅沢な造本、もちろんハードカバーだ。70句を春夏秋冬と新年に分け、それぞれ中扉と裏白、和田誠の挿画と裏白を配して、これだけで5×4で20ページを取っている。70句が70ページ、目次やあとがきを入れて101ページになった。本体1748円に税金。

 句をいくつか拾ってみる。

 見送りて目薬をさす帰雁かな

 桜桃の茎をしをりに文庫本

 拝復と書くまで長きふところ手

   5列目にて芝居を見て

 討入やいろはにほまで雪の中

 去年今年読みつづけたり盛衰記 

 丸谷の句は高踏派である。半ば遊び、余裕で作っている。半端じゃない教養を出し惜しみしない厭味もある。それがたった70句の句集だ。丸谷も出版社もそんなに売れるとは考えなかったのではないか。それでおそらく丸谷の遊び心の提案で検印を付すことにしたのだろう。

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 検印とは写真のように奥付のページに著者の押印を貼付するもので、著者が押印した小片を出版社に提供し、出版社がそれを奥付に貼って初めて発行できるものだった。著者は押印した小片の数で発行部数を管理した。検印の数量が印税の数量を意味したので、きわめて重要だった。昔の作家のエッセイで、家族総出で押印し、この判子1個がいくらになるのだから頑張れと家族にハッパをかけている描写があった。しかし、何万部も発行すると著者の押印も大変だし、それを奥付に貼り込むのも製本所の負担になる。それで50年ほど前から「著者との合意により検印廃止」と印刷することで検印を省略し、さらに単に「検印廃止」と印刷するに至り、昨今はそんな文字もなくなっている。

 ただ、検印が不要になれば、悪い出版社は発行部数を過少に報告して印税の支払いをごまかすこともあった。著者は検印がなければ本当の発行部数を把握することができない。私が勤めていた小さな出版社のH社長はいつもみみっちく印税をごまかしていた。

 もっともある弁護士が言っていた。誠意があれば契約書がなくても約束は実行されるし、誠意がなければ契約書があっても約束は履行されないと。契約書や検印より誠意が大事なのだった。

 

 

七十句

七十句

 

 

 

√kコンテンポラリーの浜田浄展「記憶の地層―光と影―」を見る

 東京神楽坂の√kコンテンポラリーで浜田浄展「記憶の地層―光と影―」が開かれている(10月24日まで)。浜田は1937年高知県出身、1961年に多摩美術大学美術学部油画専攻を卒業している。2015年には練馬区立美術館で個展が開かれている。

 √kコンテンポラリーは1階と2階を使った広い会場で、公立美術館の練馬区立美術館よりも浜田の大作が一層見栄えのする展示になっている。しかも高齢にもかかわらず近作が並べられている。

 作品の多くは合板に絵具を塗り重ね、それを彫刻刀などで彫り=削り、その凹面に絵具を塗り、彫られていない凸面に別の色の絵具を塗っている。画面は木版画の版木のような凹凸で構成されている。一見ミニマル・アートを思わせるが、画面は無機的ではなく、表情を持っている。だが中心はなく均質な画面が広がっている。

 また紙に鉛筆で描いたドローイング作品も展示されている。それはただ画面が鉛筆で塗りこめられているように見える。しかし筆触(というのか)は見えない。普通の鉛筆を使って、短いストロークで線を描き、それをほとんど無限に繰り返し重ねて鉛筆の面を作っている。表裏に描きこんだ作品もある。すると、鉛筆のドローイングが鉛筆の面を作り、それは鉛筆で作られた物質に昇華しているように思える。

 

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作品の一部

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作品の一部


 浜田は単一の作業を繰り返し行って作品を作っている。それは大変な作業だろう。作品は浜田の過剰な制作の時間が集積されたものであり、また繰り返し彫り込み塗りこめられた手作業の豊かな表情を持っている。

 会期後半には一部作品の入れ替えも計画されているようだ。高齢の作家の若々しい作品をぜひ見てほしい。

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浜田浄展「記憶の地層―光と影―」

2020年9月19日(土)-10月24日(土)

11:00-19:00(日・月・祝日休廊)

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√k(ルートk)コンテンポラリー

東京都新宿区南町6

電話03-6280-8808

https://root-k.jp/

都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅」」A2出口から徒歩5分

東京メトロ東西線神楽坂駅」神楽坂口から徒歩12分

東京メトロ飯田橋駅」B3出口から徒歩10分

 

 

東京都写真美術館の「森山大道展の東京ongoing」を見る

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 東京都写真美術館で「森山大道展の東京ongoing」展が開かれている(9月22日まで)。ちらしから、

スナップショットの名手として知られる、日本を代表する写真家・森山大道。1960年代に写真家として活動を開始し、その作風は「アレ・ブレ・ボケ」と形容され、写真界に衝撃を与えました。

以来、世界各国の美術館での大規模展、2019年のハッセルブラッド国際写真賞をはじめとする数々の国際的写真賞の受賞など、デビューから55年を経た現在もなお世界の第一線で活躍し続けています。

森山が写真家として活動を始めたのは、東京オリンピックの開催された1964年。

当時より、森山は一貫して東京という都市のさまざまな様相をカメラでとらえつづけ、現在も継続中です。(後略)

 

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  ここに掲載した会場風景は最初の部屋で撮影が許可されたものだけ。次の部屋から膨大な写真が壁面を埋めている。東京の風俗というより新宿歌舞伎町の風俗を、余すところなく撮っている。ほとんどえげつないとまで言い得るほどだ。

 森山の都市のスナップを見ていると、現代の若い写真家たちに影響を与えているのは派手なアラーキーではなく、森山大道こそだったのかと気づかされた。時代の記録写真家としては森山大道だった。

 ぜひこの連休に足を運ばれることをお勧めしたい。

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森山大道展の東京ongoing」

2020年6月2日(火)-9月22日(火・祝)

10:00-18:00(月曜休館、9/21は開館)

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東京都写真美術館

電話03-3280-0099

http://www.topmuseum.jp

 

ガルリH(アッシュ)の沼田直英展を見る

 東京日本橋小舟町のガルリH(アッシュ)で沼田直英展が開かれている(9月26日まで)。沼田は1954年北海道生まれ、1977年に創形美術学校絵画科本科を卒業し、1981年から1982年まで東洋美術学校第1回パリ派遣留学をしている。1979年に櫟画廊で初個展、その後ギャラリイKやときわ画廊、ギャラリーGANなどで個展を繰り返している。

 今回のタイトルは「原空間‐エーテル空間における無限遠‐」という難しいもの。その意味は画廊が作成したパンフレットに大橋紀生が解説しているがやはり難しい。

 沼田は幾何学的な作品を作っている。作品には厚みがあり、レリーフと呼んでいいのかもしれない。正三角形または2等辺三角形を用い、白、黒。黄、青、赤など原色を使っている。一見単純な形でありながら、三角形の角度や線との組み合わせから複雑な構成を作っている。素材は木材合板とウレタン塗料とある。

 

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沼田直英展「原空間‐エーテル空間における無限遠‐」

2020年9月13日(日)-9月26日(日)

12:00-19:00(最終日17:00まで)14日、23日休廊

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ガルリアッシュ galerie H

東京都中央区日本橋小舟町7-13東海日本橋ハイツ2F

電話03-3527-2545

https://galerie-h.jp

東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅A1・B6出口から徒歩5分