「西の魔女が死んだ」を読んだ

 去っていったカミさんがたくさんの本を残していった(娘に?)。「スタインベック短篇集」がないか探したらそれはなかったが、梨木香歩西の魔女が死んだ」(新潮文庫)があった。何年か前映画化されて、その頃書店に平積みされていた。ちょっと惹かれたがその時は買わなかった。ヤングアダルト本好きなカミさんが読んだのだし、読んでみようかと手に取った。体育の日に画廊回りをしたとき持っていって移動する電車の中で読み、翌日通勤の電車で読んで職場へ着く前に読み終わった。朝の通勤電車を降りたとき、涙は出なかったものの口が歪んでしまうのを止められなかった。ひと言で言って良い本だと思った。
 良い本だと思いながら小さな瑕疵も目についた。エピソードが少ないのだ。もっといろいろなことがあったはずだろう。隣のゲンジさんとの交渉も簡単な話で終わっている。ゲンジさんは本当はどんな人だったのか。少女まいの好きな野原も、その情景が明瞭に現れてこない。総じて描写が不足していると思われる。そして唐突にちょっと司馬遼太郎ばりのオーバーな形容が現れる。
 せっかくの良い素材が十分に生かされていないように思えるのだ。繰り返して言うが良い本だと思う。だから多少ある小さな瑕疵を惜しむのだ。


西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)