ナイフは役立つか

 いつ頃だったかナイフが流行ったことがあった。知人のフリーの編集者もナイフ特集のムックを編集したと言っていた。便利な道具なので男はナイフをというような流れだった。影響を受けやすい私も1丁購入した。
 日本橋の木屋へ行っていつも持ち歩くのでできるだけ軽いものをと注文したら、重さを量ってくれてこれがいいでしょう。デザインは気に入らなかったが軽さを重視してそれを買った。ガーバーGERBERの折りたたみナイフで重さ33グラム、けっこう高くて7,000円ほどした。刃渡り5センチくらい。
 それから鞄の中に入れていつも持ち歩いている。役に立ったのが2度。山梨県石和市だったかに桃の取材に行ったとき、通りかかった農家の小母さんが桃を山ほど分けてくれた。山の中のこととて水がなく桃を洗うことができない。このナイフで皮をむいて食べた。もう一度は東京神田を歩いていたとき、道路の植え込みに混じって柿の木が植えられており、枝にびっしりとツノロウムシ(カイガラムシの一種)が寄生していた。すぐ前のお店の小母さんに断ってナイフで枝を切り会社に持ち帰って撮影した。
 約20年余で役に立ったのがこれだけ。都会の生活でナイフは不要と言えるだろう。それでも惰性で持ち歩いていて、山口へ出張した。羽田でナイフが引っかかり機長預かりとなった。預かり書をくれて、むこうへ着いたらこれと引き替えに返してくれるという。同じことが羽田へ戻るときも繰り返され、羽田で係員に預かり書を渡すとじっと見ていて何もしようとしない。内容を理解しようとはしているみたいだが。説明してやろうと預かり書を見ると、それは昨夜泊まったホテルの領収書だった。
 ナイフに関するエピソードはこれで終わり。