喫煙は県外で

 神奈川県知事が飲食店での喫煙を規制する計画を立てていると報道された。テレビのニュースで街頭インタビューを受けている男性が、こうなったら県外へ行くしかないですねと答えていた。
 40年前、東京都は売春禁止令を厳格に守っていた。東京都と接する千葉県、埼玉県、神奈川県は建前はともかく実際にはそれを黙認していた。東京都民はそのためやむを得ない場合には隣の県へ出かけていったのだ。かくして東京都にごく近い隣県の街がそのような客でにぎわうことになった。船橋市川口市川崎市がそれである。いまでもその余韻が残っているが。
 そのことを若い女性に話したとき、え、日本て売春禁止じゃなかったのと驚かれた。もちろん若い男性はそれが建前にすぎないことを知っている。若い女性たちは建前が刷り込まれたまま、それが解除される機会がないのだ。レストランで料理を残さないのも給食を残さないよう教育されたことの刷り込みに違いない。彼女らは、自分が食べきれないときには相客に食べさせてでも皿に料理が残らないようにしている。残してもいいのだよ。ほら宮中晩餐会だってみんないっぱい残している(に違いない)。
 さて川崎市についての補足。川崎駅南口に降りると、左手に堀之内、右手に南町がある。堀之内が昔のトルコ街いまはソープ街、南町が何て言ったっけ、小料理屋風になっていて中で女性が待機しており、2階に布団が敷いてあって短時間だけ付き合ってくれるというシステム。私は堀之内は昔もいまも行ったことがないが、南町は少しだけ知っていた。仲間の安ちゃんがここに屋台を出していたから。
 安ちゃんの話。暗がりで酔客相手に白黒写真を売っているやつがいる。客にぱらぱらっと見せると、裸の手足が絡まっている。高い金を出した客が家に帰って見てみると相撲の写真。先の小料理屋から出て来た客にどうだった? と聞くと良かったよという返事。お客さん、あれは男だよ。ぎゃっ! 最後のエピソードは吉行淳之介のエッセイを思い出す。吉行の買った娼婦があんまり具合がいいので、探ってみると手でしていて男だった。吉行が書いている、あんなにいいのがあるはずがない。そんなものだろうか。
 なお南町の話は実話だが、かれこれ40年も前の話だ。最近のことは知らない。