宮崎学『となりのツキノワグマ』(新潮社)を読む。宮崎学は動物写真家、長野県の中央アルプス周辺を拠点に野生の動物を撮っている。自分で考案した24時間ライブカメラで夜間の森の中、けもの道を通る野生動物を撮影した写真で数々の賞を受賞している。
本書は2010年初版の15年も前の出版だが、熊の被害が大きなニュースになった昨年の話題を先取りしていて優れた写真集だ。
写真集ではあるが、宮崎は一人森の中へ分け入り、自然の中で生活する熊の生態を見事に写し取っている。ほとんど生態学者と呼んでも良いほどだ。
熊の糞を分析し、熊の食性を明らかにしている。熊の食べものの嗜好も個性があり、すべての熊が蜂蜜を好むわけでもない。宮崎の見るところでは蜂蜜を好む熊はわずか1割だという。発酵物(奈良漬け、味噌、ビール)が好きな熊もいる。熊の糞から拾いだした種を蒔いて発芽した植物を育てるなど、宮崎の研究は奥が深い。
熊の大きな巣箱を作って、熊の冬眠を撮ろうとしたり、各地のクマ棚を探してその生息地を割り出したりしている。クマ棚とは熊が木に登って実を食べた跡だが、宮崎によると人里近くまでたくさんのクマ棚があることが分かる。それは恐ろしいほどだ。長野県飯田市の風越山の写真を載せて、そこに20か所以上のクマ棚を指摘している。別の場所だが、別荘用地として不動産会社が売り出しているところにもクマ棚がある。新しく別荘が建てられた庭にはリンゴやブルーベリーが植えられており、これらはクマの好物なので熊を呼び寄せているようなものだと言う。
宮崎は本書を取材した15年前頃、熊は生息数が減少しているという意見に対して、その撮影実績からむしろ増えていると指摘する。その生息数を調査する方法を考える。熊は陰部を隠しているので、雌雄が分かりにくい。それを確認するためにマタミールという装置を開発して、個々の熊の股を撮影する。その結果、女子中学生くらいの小さい雌、出産経験のある中年のおばさん熊、性器が肥大した初老熊、女子高校生くらいの若い熊などと分析している。熊の盗撮写真が並んでいて、その方面の愛好者(熊)には垂涎の写真だろう。
熊の生態写真集としても面白いし、生態記録としても優れた仕事だと思う。
蛇足で、宮崎の仕事とも熊とも無関係な話題だが、猫に関しては出産経験のある猫の方が処女猫よりもモテるのだそうだ。ポリネシアでは太った女性がモテるようだし、モテや非モテなんかも文化の影響が大きいのだった。
