池谷裕二『すごい科学論文』を読む

 池谷裕二『すごい科学論文』(新潮社新書)を読む。池谷裕二が世界的学術雑誌に掲載された最新の科学論文から面白い論文を選んでそのエッセンスを紹介している。

 老化は徐々に進むのではなく、老化が突如進む加速期とそれほどは進まない停止期が交互に訪れる。平均すると44歳と60歳頃が一気に老け込む時期になる。子どもの成長期における第1次性徴と第2次性徴のように、老年期にも2大老化期があるという。

 認知症リスクを下げる「抗炎症食」がある。抗炎症食を心がけている人は認知症を発症しにくいことが分かった。その抗炎症食とは、イワシやマグロなどのオメガ3脂肪酸を豊富に含む魚、レンズ豆やヒヨコ豆などの豆類、ブルーベリーやリンゴなどの果物、ブロッコリーやほうれん草などの葉野菜、玄米やオートミールなどの全粒穀物、アーモンドやクルミなどのナッツ、そして良質な脂肪としてエクストラバージンオリーブオイルなどだという。

 ChatGPTが生成する文章がどの国の文化に近いかを調べた論文によると、アメリカ人の価値観はヨーロッパ人に近く、欧米圏から最も遠い価値観を持つのがイスラム圏やアフリカ諸国で、中南米はその中間、そして日本人の価値観はアジア圏よりもむしろ欧米圏に近かった。

 一、二、三、四、五と、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ。漢数字とローマ数字は別の地域で独自に発達したが、類似点がある。どちらも1から3までは「棒」の数が増えるが、4以降でこのルールが崩れる。これには「サビタイジング」が関与している。サビタイジングとは「瞬時に個数を把握すること」。3個あるいは4個まではすばやく個数を回答できるが、5個を超えると判断が遅くなり、計算ミスも増加する。おそらく脳にとって、4までの数とそれ以上の数は本質的に別物なのだろうと。

 地球上の生命の基本はDNAである。DNAには4種類の文字で表される塩基があり、ヒトでは塩基が約30億個並び、ヒトをヒトたらしめている。少しでも配列が異なればヒトではなくなる。ヒトとチンパンジーのDNA配列は99%同じなのだ。裏を返せば、生物のDNAは極端に限定された配列になっている。この事実から、次の2つの可能性が浮かび上がる。

1 生物は絶妙な均衡のうえに成立しており。自由なDNA設計は許されない。

2 生物進化は数十億年と短く、DNAのありうる全配列が試行されたわけではない。

 もし1なら、宇宙に生物が存在する可能性はきわめて低く、2ならば、ヒトとは似つかない宇宙人が存在する可能性がある。

 ゴサイ博士の論文によれば2が正しいという。

 ここからは私の見解だが、スタニスワフ・レムによれば、知性は何も生物に限らず、宇宙人を考えるとき、DNAに拘ることはないだろう。ソラリスの海や、金属が進化した知性を考えることができる、というレムの驚くべき想像力を追体験したい。