亀山郁夫対談集『ショスタコーヴィチを語る』(青土社)を読む。ロシア文学者の亀山郁夫がソ連の作曲家ショスタコーヴィチについて音楽関係者や評論家、作家など10人と対談をしている。総ページ数が550ページを超える分厚い本。対談の相手は、岡田暁生、浅田彰、島田雅彦、梅津紀雄、青澤隆明、小林文乃、吉松隆、原田英代、一柳富美子、井上道義という錚々たるメンバー。
亀山郁夫はショスタコーヴィチに関する伝記を書いているほど入れ込んでいるが、岡田暁生からはショスタコーヴィチは嫌いだと言われる始末。一柳富美子はショスタコーヴィチの研究者だが、亀山の持論ショスタコーヴィチ二枚舌論を否定している。
青澤隆明は音楽評論家で、ピアニストに関する著書もあり朝日新聞に一度だけ音楽会評を書いたことがあるが、どちらもひどい文章だった。この対談ではまともな会話になっていて、文章を書くと気取って衒学趣味になるんだということが分かった。素直に書けば良いのに。
作曲家の吉松隆の話は面白かった。でも一番面白く読んだのは井上道義との対談だった。井上は発言量が多く、いかにもショスタコーヴィチが好きなんだということが伝わってくる。ショスタコーヴィチの全交響曲指揮をして録音している。
ピアニストの原田文代はショスタコーヴィチの「24のプレリュードとフーガ」を高く評価している。その曲はタチヤーナ・ニコラーエワの録音が有名だ。
(……)ニコラーエワの弟子には、マリア・ユーディナがいましたけど、ヴォルコフの本に出てくるあのポリフォニーにまつわる話、すごく面白いです。ニコラーエワが、「ユーディナの弾く(バッハの)四声部のフーガを聴いてごらん、どの声部もそれぞれ異なった音色をもっているから」というので、ショスタコーヴィチがニコラーエワの聞き間違いを確認しようと彼女の演奏を聴きに行ったら、本当に彼の言ったとおりだったと書いています。私もユーディナのバッハを聴いてひっくり返るぐらい驚きました。でもね、余談ですけど、ポリフォニーがたくさん出てくるベートーヴェンのソナタ作品101を彼女の演奏で聴いた後、ホロヴィッツの演奏を聴いたら、ホロヴィッツのポリフォニーがもっとすごくて、びっくり。ホロヴィッツという人はやっぱりとんでもない人だってつくづく思いました。
いくつか校正ミスの指摘を、
「録音は、リハーサルも何もしないで一発撮りだったそうです。」→「一発録り」(p.381)
「でも、残念ながらこの小説(『巨匠とマルガリータ』)が刊行されたのが、1860年代後半」→「1960年代後半」(p.387)
「だから、そういうなんなかあれが……」→「なんなのかあれが」(p.389)
亀山郁夫の『ショスタコーヴィチ』は最近、岩波現代文庫から刊行された。以前単行本で出版された折、このブログでも紹介したことがあった。
https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/20180706/1530864177

