中川毅『時を刻む湖』を読む

 中川毅『時を刻む湖』(岩波現代文庫)を読む。これは先月読んだ同じ著者の『人類と気候の10万年史』(講談社ブルーバックス)で紹介された事例、福井県水月湖は「世界一正確な年代が分かる堆積物」が得られる湖だという、その調査研究を詳しく綴ったもの。湖の底に縞になった堆積物を年縞と呼び、水月湖の年縞は45メートルの厚さを持ち、それは7万年以上もの時間をカバーしている。その年縞を分析することにより、地球の7万年間の気候が明らかにされるというものだが、一見地味な内容なのに著者の名文のせいで、わくわくする物語になっている。

 水月湖の湖底の堆積物を採取するボーリングは簡単なものではなかった。45メートルの深さの堆積物を採取すると言っても、1本の長い柱状資料として採取することはできない。1メートルほどのパイプを使って、短い掘削を何度も繰り返す。しかしそのコアの回収率が100%ではない。試料と試料の間にほんの数センチメートルほどの欠落がでてしまう。それを避けるために掘削を複数回行った。

 さらに7万枚の縞を数える作業である。試料を凍結乾燥させ、粘性の低い特殊な樹脂を染み込ませて固める。それを薄くスライスしプレパラート標本にする。さらに資料に含まれている葉っぱの化石の14C年代を測定する。

 それらの調査のため、イギリスとドイツの研究者の協力を仰いだ。

 完成した成果を「サイエンス」誌に投稿した。2012年「サイエンス」誌は東京の文科省研究振興局で異例の記者会見を行った。水月湖のデータが考古学の5万年の標準時に採用されたというものだった。

 2018年に水月湖の近くに福井県年縞博物館がオープンした。そのメインギャラリーには45メートルもある「年縞」が展示されている。

 

中川毅『人類と気候の10万年史』を読む

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