田中小実昌『ミミのこと 他二篇』(中公文庫)を読む。直木賞受賞作の「ミミのこと」と「浪曲師朝日丸の話」、それに直木賞候補作の「自動巻時計の一日」を収録した短編集。
ミミは聾唖の娼婦、口もきけないし文盲でもある。パンパン狩りから逃げてきたミミと出会い、親しくなるが口もきけないし文字も読めないのでどんな約束もできない。「ぼく」は当時住んでいた広島?から東京に出てくるが、新宿のオデン屋の屋台でミミに再開した。翌日アルバイトから走って帰ったが、オデン屋の屋台にミミはいなかった。しかし偶然街娼の群れの中にミミを見つける。もう離れないとバイト先の劇場に連れていくが。
浪曲師朝日丸とは軍隊で会った。「ぼく」は有名な大学の学生だったので初年兵ながら分隊長にされた。朝日丸は部下で字も読めなかった。朝日丸が天然痘にかかったときに「ぼく」はおでことおでこをくっつけて天然痘が伝染した。復員後家に帰っているときに朝日丸が訪ねてきた。朝日丸は地方を回って浪曲をうなって人気があった。その後原爆孤児たちを引き取って美談として新聞にも載った。何年もしてもう浪曲が流行らなくなって、引き取った孤児たちが大人になってストリップショーで稼いでいた。それで朝日丸は景気が良かった。しかし娘の一人が赤ちゃんが欲しいというので朝日丸の子どもを産んだ。すると他の娘たちも自分たちもと言って、1、2か月も違わない赤ん坊ができてしまった。「ぜんぶ……あの、女房になったのか?」「ほうよ、11人ぜんぶ。ひとりだけどかすというわけにはいけんのう」。
田中小実昌の奇妙な物語は彼独特のものだろう。
直木賞候補作の「自動巻時計の一日」は戦後アメリカ軍に勤める男の話でやっぱり奇妙なエピソードが語られるのだけれど、ちょっと出来は良くなかった。
