小澤實=選『近現代俳句』(河出文庫)を読む。本書は2016年に河出書房より刊行された『近現代詩歌』(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集29)から「俳句」だけを収録したもの。『近現代詩』と『近現代短歌』はすでに文庫化されている。
小澤は明治、大正、昭和、平成に活躍した俳人50人を選び、それぞれ5句を選んで口語訳と鑑賞を加えた。50人の選出は物故者に限った。この物故者に限ったため、戦後生まれは摂津幸彦と田中裕明が選ばれたが、当然選ばれるべき蛇笏賞受賞者が漏れることになった。存命者からも選ぶと、選ばれなかった俳人の不興を買うことを避けたいがためにこうしたのだろう。読者としてはこの辺りは不満だった。
おそるべき君等の乳房夏来る 西東三鬼
恐れるのが当然であるような、君等若い女性たちのみごとな乳房よ。夏がたしかに来ている。
中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼
わたしも中年になってしまっているなあ。はるか遠くに実っている夜の桃を想って見る。
この桃は果樹園に実っている桃ではない。女性的なるものの象徴的な存在であろうか。
海に出て木枯帰るところなし 山口誓子
海にでてしまうと、木枯はどこまでも進んでゆく。帰る場所はないのである。
(……)作句当時は純粋に木枯を詠んだ句であったが、西東三鬼は、太平洋戦争末期の特攻機と重ねて解釈した。その後、作者自身も三鬼の解釈に従うようになった。
戦争が廊下の奥に立っていた 渡辺白泉
口語句であるから口語訳はしない。
長い間、俳句より短歌が好きだった。ここ数年だろうか、俳句の方が好きになった。短歌の過剰な抒情がやや鬱陶しく感じるようになったのだ。だから最近は好んで俳句を読んでいる。家族では義母が短歌を、義父が俳句を詠んでいた。
ただ、本書はなぜか物足りなかった。
