東京日本橋の日本橋高島屋本館6階美術画廊Xで内田あぐり展「安里/積層」が開かれている(4月7日まで)。内田は1949年東京都生まれ、1975年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻日本画コースを修了、1993年文化庁芸術家在外研修員として渡仏、第12回山種美術館賞展で大賞を受賞している。近年の個展としては、武蔵野美術大学美術館、原爆の図丸木美術館、神奈川県立近代美術館葉山、横須賀美術館などがある。











今回左右10メートル近い大作「安里/ASATO」を展示している。高島屋のホームページから、
本展を象徴する幅約10メートルにおよぶ大作は、沖縄県那覇市街を流れる川にインスパイアされた作品です。内田氏が直感的に選んだ特に変哲もないその二級河川は、沖縄の凄惨な歴史の目撃者でもありました。作品に立ち顕れるのは、時間、空間、異なる属性の人間や文化、感情が、様々に交錯し折り重なった堆積層。
図録に書かれた内田のテキストを要約すると、沖縄那覇の定宿するホテルの裏手に二級河川の安里川が流れている。ここにはゴミが溜まっている光景を目にすることがある。「それは川と呼ぶよりも、澱みの深い青緑色の泥土に染まる沼地のような感覚を覚える」という。
安里川は太平洋戦争末期の沖縄戦において、熾烈な戦いが繰り広げられた地上の激戦地だった。中でも、「シュガーローフの戦い」(安里52高地、現在のおもろまち駅近く)は地獄の7日間と言われ、日米軍双方に多くの戦傷者を出し、また多数の沖縄の人々を巻き込んだ沖縄戦最大の激闘であった。
その戦場となった安里川の現在を内田は描いている。しかし絵とは残酷なもので、そんな凄惨な歴史があった安里川を描いた作品が美しいのだ。藤田嗣治が描いた戦場の殺戮の絵が悲惨にも関わらず、同時にそれが絵として見事なように。
内田の絵は優れた造形を示している。私にとって内田は、野見山暁治亡き後、ポスト野見山として随一の画家に思える。たとえ洋画と日本画と異なっていても。
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内田あぐり展「安里/積層」
2025年3月19日(水)-4月7日(月)
※営業日・営業時間に関してはホームページ参照
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日本橋高島屋S.C. 本館6階美術画廊X
電話03-3211-4111(代)