佐多稲子『素足の娘』(新潮文庫)を読む。昭和15年に出版された佐多稲子の若いころの作品。解説の佐々木基一が書いている。
『素足の娘』を読みかえした。そして、やはりこれは、『くれない』とならんで、佐多さんの戦前に書いた代表作のひとつだと思った。いや、たんに代表作であるばかりか、力のこもった傑作だと、あらためて感服した。
佐多の若いころの姿を重ねたような主人公の14歳の少女の日々を描いている。祖母たちと東京に住んでいたのを父親からこちらに来いと呼び寄せられ、父親が勤める造船所のある瀬戸内海の小さな港町で親子二人で暮らすことになる。父親の同僚や大家の一家などとの交流、「私」の微妙な心の動き、それらは佐多の晩年の傑作『夏の栞』で描かれたそれと同じだが、『夏の栞』に比べればやはり今一歩であるのは仕方がない。比べる相手が悪いのだ。
戦前の出版なので、レイプのシーンもあるが、「(以下4行削除)」などと削除されたままになっている。本文庫は昭和36年に出版され、当時佐多はまだ存命だったが、戦前の原稿は失われて、佐多自身も再現に熱意はなかったのだろう。「削除」自体も戦前の現実を反映していると考えれば、このままで良いのかもしれない。
佐々木は『くれない』と並んで佐多の戦前の代表作と言っているが、佐多こそ晩年の作品は珠玉ぞろいで、その傑作群に触れたら、わざわざ若いころの作品を読もうと言う気にはなれない。いや、それほど晩年の作品が優れているということだ。『夏の栞』に続いて『時に佇つ』も傑作だった。
以前、私の文庫ベスト3を選んだとき、
としたのだった。



