三野博司『アルベール・カミュ』(岩波新書)を読む。若いころカミュの『異邦人』は私の最も好きな本の一つで、たぶん10回以上読み直している。ただ、『異邦人』以外はそれほど好きではなく、いずれも1回しか読まなかった。
本書で三野はカミュの小説や評論を紹介して、カミュの思想=イデオロギーを取り出している。カミュの生存当時、フランスでカミュはサルトルとともに最も人気のある作家だった。
本書でカミュの思想を追っていくと、時代に即した時事的な主張が多かった。第2次大戦のレジスタンスやアルジェリアの植民地問題、ソ連共産党に対する批判・・・。カミュが亡くなって64年経ち、カミュの主題だった時事的な問題はほとんど過去のものとなっている。
最近のコロナ禍で『ペスト』が話題になったが、さほど重要な作品とは思わなかった。やはりカミュは『異邦人』が代表作で、しかしそれも最近読み直して特段評価したいとは思えなかった。
カミュと人気を二分したサルトルは、カミュと違って哲学的に深いものを持っていた。その哲学的なものの深さではカミュはサルトルに及ばない。
三野はカミュを小説に限らず全体的に紹介している。すると、あまり評価できない部分が多数を占めて、結局本書はやや退屈なものに終わっている。読む前に期待したので厳しい評価になってしまった。