金井美恵子『迷い猫あずかってます』を読む

 金井美恵子『迷い猫あずかってます』(中公文庫)を読む。1990年12月18日に子猫が迷い込んできた。飼い猫のようだったので、ちらしを作りあちこちに貼りだした。ちらしの文言、

 

迷い猫あずかってます

12月18日の昼ごろから、/この近辺で/迷い子になって/泣いていました。

クロトラ・オス/こねこ(少し大きめ)/よくなれて行儀よし!

 

 画家である姉の金井久美子ではなく金井美恵子が猫の絵を描いて、ちらしを作って近所の電柱や掲示板に張ったがどこからも連絡がなかった。それで金井姉妹(老嬢二人と自称)が飼うことになった。ミルンの『プー横丁にたった家』に登場するトラーから借りて、トラーと名付けた。

 トラーはその後18年と4、5カ月の老齢(人間で言えば90歳を超していると金井は書く)で、2007年の9月4日午前2時50分に息を引きとるまで、金井姉妹に可愛がられることになる。

 金井美恵子はその間、繰り返しトラーについてエッセイを書いている。二人はトラーを目いっぱい甘やかしている。

 

 この年になって猫を飼ってみると、子供の頃に比べてだいぶヒマになったせいなのかもしれないが、一日の大半とまでは言わないが猫をかまったり眺めたりして過ごしているような気がする。(中略)

 そのような立場でみていると、猫というものは性格はともかくとして、見た目の仕草や容姿、形態がまことに可愛らしいもので、相当大きくなった今でも、伸びをした、アクビをした、愛らしく前肢を顔の前で交差させて寝ている、といったようなことでも、いちいち姉と二人で、可愛いねえ、ほんとに、トラーちゃん程の美猫は滅多にいるもんじゃない、ほんとに、ケイリー・グラントそっくり、と老嬢の猫ババア的会話を交わしている始末で、客観的に見れば、なんかこう外部から閉された老嬢と猫(それも、ちゃんと去勢されたオス猫なのだ)との静かな生活ということになる。

 

 私も2匹の猫を飼っていた経験から全く同じような生活を送ってきた。プーは18歳で、チビは19歳で亡くなってしまったが、家族でうちの猫たちは群を抜いて可愛いと言い合っていた。後輩にプーの写真を見せたら見っともない顔と言われて傷ついたけど。

 以前、金井美恵子のトラーの最後を書いた文章を紹介したことがあった。

・名文とは何か

https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/20090618/1245272990

 

 

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