山本弘「ネハン(臨終)」、油彩、F10号(天地45.5cm×左右53.0cm)
1978年制作、最晩年の作品。山本はこの3年後に自死した。キャンバスの裏に山本の手で「ネハン」と書かれ、その年に開かれた個展では「臨終」と題されて発表された。ネハン=涅槃は釈迦が高い悟りの境地に達して亡くなったこと。それを臨終と言い換えていることは、山本自身の臨終を涅槃だと言っているに等しい。すなわち自身の死を極めてポジティブに捉えている。自身の死を決してネガティブに考えてはいないということだろう。
事実、横たわった、命がまさに尽きようとしている人が美しい空色で描かれている。その死は高い悟りの境地に通じているのだ。
山本はこの絵を制作した3年後に自ら命を絶っている。亡くなる3年前から死を否定的に捉えていなかったことが分かるのではないか。死というテーマとは裏腹に美しい作品となっている。