小林貴子『句集 黄金分割』を読む

 小林貴子『句集 黄金分割』(朔書房)を読む。小林は1959(昭和34)年、長野県飯田市生まれ。松本の「岳」俳句会に所属し編集長を務めている。先に亡くなった稲畑汀子に代わって、4月から朝日俳壇の選者に就任した。

 本書は2008(平成21)年~2014(平成26)年の7年間の作句から選ばれている。面白かったものを拾ってみる。

 

滝落つる滝の影また落つるなり

 

通草の実林彪の顔思ひ出す

 

千手観音すりぬけ蛇は穴に入る

 

空に創(きず)つけたる冬の流れ星

 

初座敷生者のためのものならず

 

空蝉は骸にあらず死にあらず

 

山々の眠りに月の蝕進み

 

ぞんざいな折目ひらけば初蝶に

 

おほごまだら蝶蝶の舞ひ時を止め

 

いやよいやよと滝壺を水出てゆかず

 

軽井沢空より冬の近づき来

 

創(きず)はみな光となりぬ春の玻璃

 

火の山の山襞を蛇のぼりゆく

 

   龍安寺

朽野や土塀に残る臙脂色

 

野茨に雨糸となり粒となり

 

銅鏡は何も映さず蟻地獄

 

滝は男なり滝壺は女なり

 

真葛原遷都の如く移る雲

 

 見事だと思った。

 1句憂国忌を詠んだものがあった。

 

憂国忌金平糖の芯に芥子

 

 これはどう読んだら良いのだろう。矢島渚男に次の句があった。

 

憂国の忌といふ愚かなる季題

 

 矢島は小林が学んだ飯田高校の日本史の教師だった。小林は年代的に直接は矢島の授業を受けていないが、郷土の大先輩として影響は受けているのだろう。