澤宮優『イップス』を読む

 澤宮優『イップス』(角川新書)を読む。副題が「難病を乗り越えたアスリートたち」で、プロ野球選手やプロゴルファーなど「突如アスリートを襲い、選手生命を脅かす難病とされてきた“イップス”。長く原因はメンタルにあるとされてきたが、実は脳にあった! 医学からみると局所性のジストニア(不随意運動の一種)といえるのだ。大事な場面で、手が動かなくなる地獄」。

 元日本ハムファイターズのピッチャー岩本勉イップスの症状が現れたときは、捕手に投げたボールがワンバウンドしたり、捕手がジャンプして捕るほど高めに行った。オフのアメリカ留学ではとにかくストライクが入らない。

 元東京ヤクルトスワローズ内野手土橋勝征、速い球を投げたときに暴投になる。練習でノックを受けても1塁の網に入らない。あまりの悪送球の多さにコーチが呆れた。

 元日本ハムファイターズ外野手森本稀哲、近い距離を投げるとハーフバウンドになってしまう。2軍のオープン戦にショートで出るが、1塁への送球はすべてハーフバウンドになってしまった。

 プロゴルファー佐藤信人、ヨーロッパツァーでイップスになる。パットの名手と呼ばれていたが、パットが打てなくなった。プロゴルファー横田真一、試合で優勝できるかと思っていた矢先に異変が起こった。パットを打とうと、パターのヘッドを下したとき、腕に電流が走るような感覚があった。高圧電流が体中に流され、筋肉が萎縮するような、固まったような感覚だ。ゴルフ界ではイップスをこう表現する。

 イップスは野球やゴルフだけではなく、体操、弓道、テニス、サッカー、楽器演奏や理容師などにも見られる。体操では跳馬のとき、名前をコールされても走り出すことができない。重量挙げの選手は、バーを引っ張ることができない。

 スポーツ心理学が専門の専修大学の佐藤雅幸教授は、イップスジストニアとには相関関係があるのではと仮説を立てて研究した。ジストニアでは米米クラブフラッシュ金子が職業性ジストニアのためにサクソホンを吹けなくなった。

 佐藤によると、

 

 「イップスは、同一の運動の過度な繰り返しによって生じる脳の構造的・機能的変化を伴う病気です。スポーツにおけるイップスは、音楽家や文筆家の運動障害と同じ局所性のジストニアと考えてよいと思います」

 指など特定の箇所に症状が出ることと、ピアニスト、ギタリスト、トリマー、作家など職業的な特性によって発症しやすいことから、職業性ジストニアと言ったりもする。

 

 スポーツ音痴の私が、本書に興味を持ったのも、広告を見てすぐこれは局所ジストニアだと気づいたからだった。社会的にはピアニストのジストニアが話題になることが多い。パラリンピックの閉会式でピアノ演奏した7本指のピアニスト西川伍平も、アメリカの有名なピアニストレオン・フライシャーも局所ジストニアだった。

 私も万年筆を握ったときのみ発症する局所ジストニアで、長く西所沢にある防衛医科大学付属病院に通っていたのだった。